映画【チョコレートドーナツ】感想(ネタバレ):愛と差別のはざまで――1979年の実話を描いた感動の人間ドラマ

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●こんなお話

 育児放棄された少年を育てようとするゲイのカップルが差別と偏見と戦っていく話。

●感想

 夜の街を、一人の少年が人形を抱えて歩いていく場面から始まる。柔らかい暖色の照明が都会の闇を照らし、無言で進む少年の姿が静かに映し出される。どこか現実離れしたような映像のトーンが、観る者の目を引きつける。冒頭から視覚的な魅力で一気に引き込まれる導入。

 舞台はニューヨーク。主人公はゲイバーで働きながら、女装して舞台に立ち、音楽に合わせて口パクでパフォーマンスをしている。店では同じような境遇を持つ仲間とともに過ごし、ある夜、そこで出会った男性と恋に落ちていく。夜の街の静けさと、車の中で交わす愛の場面。その直後、警官に理不尽な言いがかりをつけられる。この事件が引き金となって、彼の生活は徐々に社会的な圧力によって蝕まれていくことになる。

 主人公の隣に住む女性が、育児放棄をしてしまった知的障害のある少年がいる。母親の手を離れたその少年を、主人公と恋人が引き取る形で一緒に生活を始める。朝は3人で朝食をとり、日中は働き、夜は一緒に宿題を見てあげて、寝る前には物語を語ってあげる。そんな日々が続く。派手な演出はないけれど、小さな日常の積み重ねがとても愛おしく描かれていて、自然と感情が重なっていった。

 特に少年の目線や表情が心に残った。言葉数は少ないながらも、頷きや視線にこめられた信頼がじわじわと沁みてくる。ハッピーエンドの話を好むその姿も印象的だった。生活を共にする3人の様子は、どこを切り取っても温かく、そこに理想的な家族像を見ることができた。

 しかし、ゲイであることを理由に、やがて主人公たちは社会から厳しい視線を向けられるようになる。少年は強制的に引き離され、再び母親のもとへ戻される。裁判所での争いが始まり、主人公たちは再び一緒に暮らせるよう必死に訴えかけていく。薬物に溺れていた母親よりも、今の生活の方がどれほど愛情に満ちていたのか、それは映像からもしっかりと伝わっていた。

 主人公役の俳優も、恋人役の俳優も、それぞれの立場から少年を想う気持ちを強く表現していて、どの場面にも説得力があった。特に、裁判の場でゲイであることや嗜好を理由に非難されたときの恋人のスピーチは、観る側にも胸に迫るものがあった。社会の偏見にどう立ち向かうかという命題を真正面から描いていた。

 後半では黒人弁護士も仲間に加わり、状況を少しでも動かそうとするが、それでも理想とはかけ離れた現実が立ちはだかる。主人公は夢だったステージでの歌唱を果たし、その間に恋人が関係者に少年の真の居場所がどこなのかを語りかける。そして夜の街を彷徨う少年の姿が重なっていく。背中越しに語られる彼の孤独や願いのようなものが、映像の静けさとともに深く胸に残りました。

 エンターテインメントとしては、社会的に対立する側の描き方が単調になっていた印象も受けたが、それでもこの作品が1979年のアメリカを舞台に、実際にあった出来事をもとにしているという背景を思えば、描かれる痛みの重みも納得で。差別や偏見の中で、愛を育んでいた人々の姿を記録としても感じられる、重みのある一本でした。

☆☆☆☆

鑑賞日: 2014/09/07 イオンシネマ多摩センター

監督トラヴィス・ファイン 
脚本トラヴィス・ファイン 
ジョージ・アーサー・ブルーム 
出演アラン・カミング 
ギャレット・ディラハント 
アイザック・レイヴァ 
フランシス・フィッシャー 
グレッグ・ヘンリー 
ジェイミー・アン・オールマン 
クリス・マルキー 

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