●こんなお話
男子高校生が田舎でどろどろの人間関係に悩む話。
●感想
ある地方都市に住む少年と少年の恋人、家を出た母親、一緒に住む父親と父親の愛人。この狭い世界で物語が展開していきます。
シネスコの横長の画面に映る川。そこにかかる橋を渡る少年。その印象的な目つきから凄いです。
父親はセックスのときに暴力をふるって快感を得ている。母親はそれに嫌気がさして家を出ている。母親は戦争の時の怪我で片手が義手。この映画、美術もよくできていて、母親が魚をさばくまな板だったり特注の義手をひっかけたり、昭和の終わりの生活感の見事さが映画の雰囲気を倍増させていました。
少年は父親は愛人と一緒に住んでいる。愛人の顔はあざだらけ、主人公は暴力をふるう父親も嫌っているし、暴力をふるわれても何もしない母親や愛人をも忌み嫌っている。
けど、この場所から出られない苛立ちや焦燥感。それが画面からヒリヒリ伝わっていきます。それは蝉の鳴き声だったり、川底に沈む粗大ごみだったり、雨、雨の日のカタツムリ。画面印象的に挿入される鳥獣虫魚。これは人間も動物や虫も結局同じこと、というのを表現していたのだと思います。
愛人から父親の子どもを妊娠したことを話され、家を飛び出し。恋人を無理やり押し倒す。この時に初めて相手の首を絞めてしまう。果たして自分は父親と同じセックスのときに暴力をふるってしまうのではないかという恐怖。17歳なのでセックスはしたい、けどそこに暴力が加わる恐怖。
面白いのは父親を嫌いながらも普通に釣りの話をしたり完全に遮断しているわけでもないのがよかったです。
愛人が簡単にこの地を去ってしまい、少年はその苛立ちから父親に愛人の行方を話してしまう。その結果、恋人に襲い掛かる悲劇。少年が神社に行っていれば…。
そしてこの映画に出てくる食べ物の美味しそうなこと。母親が作るどんぶりだったり、うなぎだったり。食欲と性欲。
少年はあれだけこの地を出たがっていて、愛人のもとに会いに船に乗って出ていく。けれど再び戻る。この意味も大きいと思います。出て行きたくて出て行ったのにまた戻ってしまう。そこで生き、そこで死んでいく地方の生き方。
ただ個人的にはナレーションで環境状況を説明しなくてもイメージだけで成立して映画の雰囲気を倍増させることができるのではないか? とも思いました。
それと父親が恋人をレイプするシーンがないのもどうしてなのかな? と思いました。別に直接的に描かなくてもよかったと思いますが、描いた方が、父親像をくっきりさせることができると思いましたが、この映画はひたすら少年目線の映画なので少年しか見ていないものしか映さないのでそれはそれでありなのかな、とか思いました。ただ、母親の逮捕や父親が「琴子!」と商店街を探し回るシーンもあるので、その違いがわからなかったです。
あとは、いきなり「あの人が血を吐いて倒れた」と「あの人」の存在が出てくるのもわかりにくかったです。その後、昭和天皇危篤のニュースが流れるので天皇だということがわかります。てか天皇の体温、脈拍、呼吸数などをテレビで流すのだと初めて知って面白かったです。
そしてエピローグ。愛人と再会し、子どもが動いたと喜び。恋人は、あれだけ何回もセックスしても「痛い」と言っていたけどそれが変化していく。女性が自立しこれからも生きていく希望のようなものとして受け止めました。
夏の地方都市の暑い土着感の映像も素晴らしいですし、役者さんたちも皆さん素晴らしいお芝居に父親殺し夫殺しのギリシャ悲劇のような物語を昭和という1つの時代が終わるときに1つの地方の小さな物語として描いて面白い映画でした。
☆☆☆☆
鑑賞日: 2013/09/16 テアトル新宿
監督 | 青山真治 |
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脚本 | 荒井晴彦 |
原作 | 田中慎弥 |
出演 | 菅田将暉 |
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木下美咲 | |
篠原友希子 | |
光石研 | |
田中裕子 | |
岸部一徳 | |
淵上泰史 | |
宍倉暁子 |