●こんなお話
田舎で仲良かった高校生たちが東京に出てもまれて関係性が崩れていく話。
●感想
逆光が柔らかく差し込むあの光の質感、淡く霞んだような画面の色味。まるで岩井俊二監督の世界に一歩足を踏み入れたような雰囲気と、篠田昇氏の映像美を思わせるやさしいビジュアルが印象的な一本でした。画面のトーンはとても穏やかで詩的なのに、そこで描かれる内容はむしろ過酷で荒々しいものばかり。自殺やドラッグ、DV、オレオレ詐欺、銅線盗難と、現代社会が抱える闇のような出来事が次々と画面に流れ込んできます。そこに芸能界の理不尽さや不自由さが加わり、登場人物たちは現実の波にさらわれるように、それぞれの道で苦悩していきます。
冒頭では、田舎町で青春を共に過ごしていた高校生たちの姿がほんの少しだけ描かれます。河原で笑い合いながら戯れるような、何気ないけれど確かに存在していた時間。しかし、その回想は短く、物語はすぐに東京で働く若者たちの現実へと移っていきます。そのため、彼らがどのような友情を育んできたのか、なぜ互いに助け合おうとしているのか、少し見えづらいところもございました。
東京では、売れないアイドルの主人公が、自分のやりたい音楽を見失い、葛藤する姿が描かれます。その一方で、マネージャーも現場と理想の間で悩み、仲間の一人は詐欺や窃盗といった犯罪へと手を染めていきます。結婚と妊娠を選んだ仲間もいれば、心のバランスを崩してしまう者もいます。次々と起こる出来事はどれも決して軽くはなく、登場人物たちはその中でひたすら流されていくように見えました。
それぞれが何かに苦しみ、迷いながら立ち止まったり、あるいは何も見えないまま進もうとしたりする姿は、まさに青春という言葉でまとめられるようなものではありますが、同時にその感情がやや一面的に描かれている印象も受けました。苦しんでいるのか、自分を演じているのか。その境目が曖昧なまま進んでいくため、登場人物たちの気持ちに深く寄り添うことが少し難しくもありました。
とはいえ、映像の美しさは一貫して魅力的で、どこか夢の中にいるような浮遊感に包まれています。音楽も作品の世界観に寄り添い、画面と音が溶け合うような感覚が心地よく、没入感はしっかりとありました。
ただひとつ、気になったのは音のバランスで、セリフの音量が非常に小さく感じられました。会話の内容がときおり聞き取りづらく、せっかくの繊細な演技や心理描写が少し遠く感じてしまう瞬間もございました。これは映画としての体験において、少し惜しかった部分かもしれません。
全体としては、映像美と現代的なテーマを融合させようとした意欲作であることは確かです。青春の苦さや焦燥、都会の孤独感、夢を追うことの難しさなど、若者たちの不安定な心情を丁寧に映し取ろうとした姿勢は、受け手の年齢や経験によって、さまざまな受け取り方ができる作品だと感じました。登場人物たちが抱える小さな世界の葛藤も、それが彼らにとってのすべてであるならば、そこに寄り添うこともまた映画のひとつの魅力なのかもしれません。
☆☆
鑑賞日: 2019/09/30 DVD
監督 | 藤井道人 |
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脚本 | 藤井道人 |
アベラヒデノブ |
出演 | 真野恵里菜 |
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清水くるみ | |
横浜流星 | |
森永悠希 | |
戸塚純貴 | |
秋月三佳 | |
冨田佳輔 | |
工藤夕貴 | |
平田満 |
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