●こんなお話
面接のために来た女性が泊まった宿で恐怖体験する話。
●感想
面接のためにデトロイトを訪れたテスは、深夜に予約していた民泊へ到着する。しかし家の中には見知らぬ男キースが先に泊まっており、手続きの混乱からダブルブッキングが起きていた。周囲にホテルはなく治安も不安定な夜だったため、テスは慎重な警戒心を抱えながらも、キースの申し出を受けて同じ家に泊まる決断をする。控えめに距離を測りながら会話を重ねるうち、二人の間にはぎこちないながらも信頼の気配が生まれる。
翌朝、テスが外へ出ると、薄明かりの中に広がる廃墟の風景に言葉を失う。夜の雰囲気とは全く異なる荒れ果てた街並みが、民泊だけを取り残すように広がっていた。面接を終えて家に戻ったテスは、地下の扉が偶然閉まり、暗い空間へ閉じ込められてしまう。助けを求めながら奥へ進んだ彼女は、薄い光に照らされた隠し通路と監禁部屋を見つける。そこには血の跡や汚れたベッド、使い込まれたカメラが残され、何かが長いあいだ繰り返されていたことを予感させた。
異常を察したテスはキースに救助を求めるが、彼は「何もなかった」と言い、むしろ奥を確かめに行ってしまう。不穏な静けさが続いた後、通路のさらに奥からキースが血まみれで這い出してくる。逃げろと叫ぶ彼の頭部が何者かによって壁に叩きつけられ、暗闇の奥から巨大な女の怪物が現れる。テスはそのまま闇へと引きずられていく。
突然場面は切り替わり、ハリウッド俳優A.Jの視点へ移る。スキャンダルで仕事を失いかけた彼は財産整理のため、所有していたデトロイトの家を訪れる。そこにはテスとキースの痕跡が残されており、A.Jは混乱しながらも家の価値を測るため地下へ降りる。浅はかな計算で奥まで入り込んだA.Jも、隠し通路の深部で怪物に捕らえられ、檻へ放り込まれてしまう。
隣には衰弱したテスがいた。怪物は監禁された人間を赤ん坊のように扱い、逆らう者を容赦なく痛めつける存在だった。A.Jはその習性を理解できず反発し、彼が連れ去られた隙にテスは脱出を試みる。地上へ逃れた彼女は警察を呼ぶが、荒廃した街で混乱する若い女性と見なされ、まともに相手にされない。
物語は1980年代に戻り、この家の持ち主フランクの過去が示される。彼は近隣の女性を誘拐し、監禁して出産を繰り返させる異常な犯行を続けていた。長年にわたる近親交配の果てに生まれた末路が、現在の怪物である“マザー”だった。
時代は再び現在へ。テスはA.Jを助けるため家へ戻り、逃げ惑うA.Jは偶然フランクの隠し部屋を見つける。かつての犯行を記録したテープに囲まれながら、フランクは老い果ててなお異常性を保ちつつ生きていたが、フランクは拳銃で自身で命を絶つ。
家の外へ逃れたA.Jとテスは再会し、廃墟の中を逃げようとする。ホームレスの男性に助けられるが、その男性も殺害され、マザーが迫る。A.Jはテスを守るふりをして塔から突き落とす。テスは重傷を負うが、マザーは咄嗟に彼女を抱きかかえ守ろうとする。A.Jは生き残りながら口先だけの弁解を繰り返し、そこへ現れたマザーが彼の喉を引き裂く。
瀕死のテスは抱きしめられ、帰ろうと囁かれる。その温度に涙を流しながらも引き金を引き、マザーを撃ち倒す。夜が明け、テスは血に染まったままふらつきながら歩き去っていく。荒れた街の中でひとり立ち上がる姿を最後に物語は終わる。
序盤の、テスが見知らぬ男性を信じるべきかどうか迷う時間がとてもよくできており、静かな会話の裏に流れる不安がじわじわ伝わってくる作品でした。地下が予想外の広さで、光が届かない領域がさらに奥へ続いていく構造も緊張感を高め、真相が見えないまま進む空気が心地よい恐怖を作っていたと感じます。
視点が切り替わり、新しい展開が始まる構成も鮮やかで、映画が一段階動いたように思える面白さがありました。突然登場するホームレスの男性が「自分は襲われたことがない」と言った直後の展開は、思わず笑ってしまう軽妙さもあり、息のつき方が独特です。A.Jの人物造形も巧みで、外面は穏やかでも本性がにじんでくる描写が人間的で印象に残りました。
怪物をただの存在として扱わず、歪んだ歴史と環境の末に生まれたものとして描く視点も印象的で、恐怖の裏にかすかな哀しさが漂っていたように思います。展開が読めないまま進んでいく面白さがあり、最後まで緊張が途切れない作品でした。
☆☆☆☆
鑑賞日:2025/12/07 U-NEXT
| 監督 | ザック・クレッガー |
|---|---|
| 脚本 | ピーター・ゴールドフィンガー |
| ジョシュ・ストールバーグ |
| 出演 | ジョージナ・キャンベル |
|---|---|
| ビル・スカルスガルド | |
| ジャスティン・ロング | |
| マシュー・パトリック・デイビィス | |
| リチャード・ブレイク | |
| ジェームズ・バトラー | |
| カート・ブローノーラー | |
| ソフィー・ソレンソン |

