映画【トム・ホーン】感想(ネタバレ):スティーブ・マックイーンが魅せる沈黙の美学——孤独な用心棒の生き様

Tom-Horn
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●こんなお話

 ガンマンが馬泥棒とかを退治してたら凶暴すぎると町の人たちから思われて少年殺害の容疑者となって裁判にかけられる話。

●感想

 暴れ馬を預けに、主人公はとある街へとやってくる。そこで偶然、ボクサーらしき男と喧嘩をしていた主人公の姿を見かけたのが、牧場を営む男だった。彼は主人公の腕っぷしに目をつけ、「馬泥棒に困っている」と仲間の牧場主たちに引き合わせ、用心棒を引き受けてほしいと頼む。そんな縁から、主人公はこの地で馬を守るための仕事に就くことになる。

 次々と現れる馬泥棒たちを、主人公は迷いなく退治していく。拳銃の腕前はもちろんのこと、冷静沈着で言葉少ななその姿に、周囲は一目置くようになる。町では教師をしている女性ともささやかな交流が生まれ、彼の中にある柔らかな部分も垣間見えてくる。そしてある日、何よりも大切にしていた愛馬が盗賊によって殺される出来事が起こる。怒りを露わにした主人公は、もはや容赦なく敵を追い詰めていく。

 しかし次第に、主人公の強硬なやり方が牧場主たちの間で問題視されはじめる。中には「もはや用心棒は不要だ」と言い出す者も現れ、主人公を遠ざけようとする流れが生まれる。ただひとり、最初に彼を見込んだ牧場主だけは主人公の味方であり続けようとするが、その声すらも次第に届かなくなっていく。

 そんな中、町で少年が銃で殺される事件が起き、なぜか主人公に容疑がかかる。保安官に捕まり、留置所に入れられる。窓越しに景色を眺めながら、先住民からもらったお守りを大切そうに握りしめる主人公。何も語ろうとせず、弁護士を雇ってくれた牧場主にも「死刑でも構わない」と語るばかり。自身の潔白を主張しようとはせず、ただ淡々と裁きを受け入れる姿が印象的だった。

 一度は脱獄を試みるものの、すぐに捕まり、絞首刑が言い渡される。物語はそこに至るまでの過程を静かに描いていく。

 銃と沈黙、そして馬への深い愛情。どこか浮世離れした主人公の存在が、この作品の空気をすべて支配していたように思います。セリフが少なく、感情を多く語るわけでもないのに、目の動きや仕草、立ち姿だけですべてを伝えてしまうようなスティーブ・マックイーンの佇まいには、ただただ見惚れるばかりでした。

 物語の序盤では、いわゆる西部劇らしい銃撃戦が続き、見どころも多くありましたが、後半はまるで静かな裁判劇のような展開に移っていきます。その変化が示していたのは、時代の移り変わりと、西部劇というジャンル自体の終焉のようなものだったのかもしれません。銃で何かを解決する時代はもう終わりつつある、そんな感覚が映像の中からじんわりと伝わってきました。

 特に、主人公が常に身に着けていたお守りが象徴的で、現実と精神の狭間で生きているような彼の存在に、物語の深みを感じました。西部劇というジャンルの中にありながら、人間の孤独と誇りが描かれていた作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2023/03/01 WOWOW

監督ウィリアム・ウィヤード 
脚色トーマス・マクゲーン 
バッド・シュレイク 
原作トム・ホーン 
製作総指揮スティーヴ・マックイーン 
出演スティーヴ・マックイーン 
リンダ・エヴァンス 
リチャード・ファーンズワース 
ビリー・グリーン・ブッシュ 
スリム・ピケンズ 
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