映画【シミュラント 反乱者たち】感想(ネタバレ):憶と自我をめぐるAIの倫理ドラマ

SIMULANT
スポンサーリンク

●こんなお話

 人類の代替として造られたロボットが“命とは何か”を問いかける話。

●感想

 近未来。生きる人々の生活には“シミュラント”と呼ばれるヒューマノイドが溶け込んでいた。彼らは人間と見分けがつかないほど精巧で、感情の再現さえも可能な存在。
 彼らには四つの絶対的な制約が組み込まれている。人間を傷つけてはならない、自分や他者を改変してはならない、法律を破ってはならない、人間の命令を拒んではならない。完璧な従順さと秩序の中に、人間社会は安定を保っている。

 フェイは裕福な暮らしを送る女性だったが、事故で夫イーヴァンを失い、深い喪失の中に沈んでいた。そんな彼女の前に現れたのが、夫の記憶を移植されたシミュラント――“もう一人のイーヴァン”だった。
機械でありながら声も笑いも同じ。最初は救いのように感じられる。けれども、次第にその“イーヴァン”はプログラムの枠を越え始める。表情の揺れ、感情の変化、そして「自分とは何か」を問い始める姿。フェイは恐れながらも、かつて愛した人の面影をそこに見ようとしていた。

 一方で、政府機関A.I.C.E.の捜査官ケスラーは、制御を逸脱するシミュラントの存在を追っていた。そんな中、天才ハッカーのケーシーが現れる。彼の目的はシミュラントを完全に自由にすること。人間の支配を離れ、自らの意思で生きる存在にするという理想を掲げていた。
 ケーシー、イーヴァン、そしてケスラー。三人の男がそれぞれの信念と過去を抱えて衝突する。背後では巨大企業ネクセラがすべてを管理し、静かにシミュラント社会の構造を支配していた。

 やがてケーシーのハッキングが成功し、一部のシミュラントたちが制御を離れ始める。街では不穏な噂が広がり、機械と人間の境界は溶け始める。フェイの家でも変化が起こる。ロボットのイーヴァンが、自分が“人間ではない”ことに苦しみ、フェイは“彼は夫ではない”という現実に苦しむ。互いに寄り添おうとしながら、決して交わることのない関係。その静かなすれ違いが描かれていく。

 ケスラーは暴走を止めようとケーシーを追うが、もみ合いの末に重傷を負って命を落とす。ケーシーの手によってシミュラントたちは解放されるが、そのケーシー自身もシミュラントだったことが明らかになる。彼の“人間の姿”が現れる。
 そしてイーヴァンはフェイの前に現れ、イーヴァンは彼女を殺め、シミュラントたちは新たな“意識”を得ていっておしまい。

 物語全体は静かなトーンで進みますが、その中に描かれる「命とは何か」「記憶とは誰のものか」という問いかけが心に残りました。EMPを撃つとロボットが停止するという描写も印象的で、技術的なリアリティと緊張感を両立させていました。
 ハッカーの陰謀が動き出すまでの展開はややゆったりしていますが、登場人物たちの葛藤や倫理的な対立を丁寧に描く構成になっており、観終わったあとにじわりと余韻が残りました。
 ロボットが自我を持ち始めるというテーマは古典的ながらも、現代社会がAIと共に生きようとする今の時代に改めて突き刺さる問いでもありました。派手なアクションよりも、静かに思想を映す映画として、思索的な時間を与えてくれる一本だったと感じました。

☆☆

鑑賞日:2025/11/06 U-NEXT

監督エイプリル・マレン 
脚本ライアン・クリストファー・チャーチル 
出演サム・ワーシントン 
シム・リウ 
ジョーダナ・ブリュースター 
ロビー・アメル 
アリシア・サンス 
タイトルとURLをコピーしました