●こんなお話
ドイツから極秘裏に運ばれた不死の心臓が広島の原爆で消えてしまったと思ったら、15年後に怪童として現れる話。
●感想
第二次世界大戦末期、ドイツのナチスはフランケンシュタインの心臓を利用した不死の研究を進めていた。戦局の悪化とともに、その心臓は日本軍の手に渡り、潜水艦によって広島へと運ばれる。しかし、原爆投下により街は壊滅し、研究も途絶えた。唯一生き残った心臓は、放射線を浴びながら脈動を続けていたという。
十五年後、復興を遂げつつある広島で、放射能の影響と噂される奇妙な現象が相次ぐ。動物の死骸が見つかり、やがて一人の少年が保護される。川地博士とボーエン博士はその少年を調べ、急速に成長を遂げる彼が人間離れした再生能力を持っていることに気づく。少年はやがて巨大な姿へと変貌し、人々から「フランケンシュタイン」と呼ばれるようになる。博士たちは、原爆の放射線と不死の心臓が融合した結果、この存在が生まれたのだと推測する。
フランケンシュタインは成長の果てに檻を破って逃走し、山中で孤独に生きるようになる。彼の姿に恐怖を抱いた軍は討伐を決定するが、博士たちは理性を持つ存在として彼の命を救おうと奔走する。そんな中、日本各地で地中から現れる怪獣バラゴンが人々を襲い、村を破壊し、地を掘り進んで暴れ回る。軍はその被害をフランケンシュタインの仕業と誤認するが、調査によって真の脅威がバラゴンであると明らかになる。
山中で再び姿を見せたフランケンシュタインは、バラゴンと遭遇する。二体は壮絶な戦いを繰り広げ、岩山が崩れ、地が裂ける。フランケンシュタインは力の限りに戦い、バラゴンを打ち倒すが、その直後に巨大なタコが現れ、さらに混乱が広がる。やがて地割れが起こり、フランケンシュタインは地中深くに沈んでいく。彼の生死は不明のまま、人々は「生きている方が幸せなのか」と静かに語り合う。
この作品には、怪獣映画という枠の中で、戦後日本の影がしっかりと映り込んでいるように感じました。原爆の爪痕が残る広島で、不死の心臓を宿した少年が異形へと変わっていく物語は、単なる特撮娯楽としてだけでなく、人間の倫理や科学への問いかけをも含んでいます。フランケンシュタインと名づけられた存在は、まるで人間社会の罪を背負わされたかのように描かれ、哀しさと切なさを伴って画面の中で息づいていました。
特撮の完成度も素晴らしく、巨大化したフランケンシュタインがまだ“人間”の形を保っているという造形の妙が際立っていました。ミニチュアの町並みや、彼の足元で舞う土煙の質感が丁寧に作り込まれており、見ているだけで惹き込まれます。研究所からの脱出シーンでフラッシュに怯える彼の姿には、獣の本能と人間の恐怖の両方が同居していて、とても印象的でした。山の中や琵琶湖周辺を彷徨う姿も美しく、ロケーションの使い方にも監督のこだわりを感じます。
一方で、地底怪獣バラゴンの登場は少し唐突で、物語的な接点が薄く、やや強引な印象を受けました。とはいえ、クライマックスの殴り合いは圧巻で、背後で山が炎上する中、フランケンシュタインがバラゴンを締め上げる構図には手に汗を握りました。あの質感豊かな土と火の映像は、現在のCGにはない重みを感じさせます。終盤で突如現れる巨大ダコの存在も、突拍子のなさゆえに妙な余韻を残し、昭和特撮の自由さを象徴しているようでした。
フランケンシュタインが怪獣でありながら、どこか人間の悲しみを宿しているように見える。この作品は、怪物を通して人間そのものを見つめ直す寓話のようでもありました。戦争と科学、そして孤独というテーマが静かに絡み合いながら、観る者の心に深い印象を残す作品だと思います。
☆☆☆☆
鑑賞日:2020/11/10 NETFLIX 2025/10/24 U-NEXT
| 監督 | 本多猪四郎 |
|---|---|
| 特撮監督 | 円谷英二 |
| 脚本 | 馬淵薫 |
| 出演 | ニック・アダムス |
|---|---|
| 高島忠夫 | |
| 水野久美 | |
| ピーター・マン | |
| 土屋嘉男 | |
| 志村喬 |


