●こんなお話
1900年代初頭のアメリカで家父長制の社会を生き抜く人の話。
●感想
物語のはじまりは、静かに、しかし重たく始まる。少女である主人公は、自分の父親とのあいだにふたりの子どもをもうける。けれど、その子どもたちはすぐに引き離されてしまい、彼女のもとに残るのはその記憶と、妹だけだった。姉妹のあいだには、過去の影に負けないほどの結びつきがあったように思える。
そんなある日、街の若者が主人公の父親に結婚を申し込む。娘と一緒になりたいという願いはあっさりと拒否されるが、代わりに差し出されたのは主人公だった。そうして彼女は、本人の意志とは別に新しい生活を始めることになる。
始まった結婚生活は、愛情とは遠い場所にあった。家事はすべて押しつけられ、夫からは日々、暴力が振るわれる。言葉で、手で、視線で、尊厳が少しずつ削られていく日々のなかに、妹が訪ねてくる。束の間の再会は、温かさをもたらしたかに見えた。だが夫は妹にも手を伸ばそうとし、妹はそのまま家を追われてしまう。
その後、夫が別の女性を家に連れてくる。彼女は歌手として舞台に立つ人だった。光をまとったような姿に、主人公は惹かれていく。言葉にしづらい感情が心の奥で膨らんでいく。痛みを抱えた者同士だからこそ通じるものがあるようにも感じられる。
その女性がキスをしてくれる。優しく、短く、それだけの接触。でもそれがすべてのようにも思えた。もっと深いなにかが描かれるのではと期待してしまいそうになるが、そこから先は描かれない。そのまま何事もなかったかのように、物語は別の道を進んでいく。
妹との文通だけが主人公の心をつないでいたが、やがて手紙が来なくなり、寂しさと不安が心を覆う。そんなとき、思いがけない事実を知る。妹からの手紙は届いていたのだ。ただ、夫がそれを隠していただけだった。どこまでも支配は続いていたのだと知る瞬間。
妹はアフリカで暮らしていて、新しい人生を始めていた。彼女の手紙には穏やかさと幸福があふれていた。それを読む主人公の表情に、ようやくほんの少しの解放がにじんでいたように感じた。
ある日、夫の髭を剃るとき、主人公は刃を彼の首元にあてる。けれど、その手は止まる。その場では殺さず、代わりに家を出る決意を固める。親が遺してくれたわずかな資産を使い、自立した生活を始める。誰にも縛られない、自分の手で選ぶ日々。
新たな場所には、過去に似た痛みを持つ女性たちがいた。迫害され、見えない場所で傷ついてきた人たち。その人たちと日々を過ごすうちに、主人公は少しずつ、自分の輪郭を取り戻していく。
そしてクライマックス。アフリカから妹が戻ってくる。手には、主人公がかつて産んだ子どもを抱いて。生き別れていた家族が、再びひとつの場所に集まる。二人の女性が、夕陽の中で、子どものころから歌っていたあの歌を一緒に口ずさむ姿は、静かで、あたたかくて、まるで長い旅の果てに辿り着いた場所のようだった。
そしてその様子を、遠くから見つめる夫の表情が映し出される。悪役として描かれてきたはずの彼が、その瞬間にはどこかやわらかい顔をしている。その意味をどう受け取ればいいのか、簡単には言葉にならなかった。
女性たちの長い物語は、苦しみと共に始まり、苦しみの中に希望を見つけながら終わっていく。自由とは、誰かに与えられるものではなく、選び取るものなのだと、そんな声が聞こえてきたような気がしました。
☆☆☆
鑑賞日:2023/07/01 U-NEXT
監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
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脚本 | メノ・メイエス |
原作 | アリス・ウォーカー |
出演 | ダニー・グローヴァー |
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ウーピー・ゴールドバーグ | |
マーガレット・エヴリー | |
オプラ・ウィンフリー | |
ウィラード・ヒュー | |
アコースア・ブシア | |
デスレータ・ジャクソン | |
アドルフ・シーザー | |
レイ・ドーン・チョン | |
ダナ・アイヴィ |