●こんなお話
メジャーリーグの弱小球団をマネーボール理論で強くしたゼネラルマネージャーの話。
●感想
統計学を活用した「マネーボール理論」によって、伝統的なスカウティングやチーム編成の常識に挑んでいく様子が描かれます。実話をベースにしたストーリーだけあって、リアリティのある駆け引きやビジネスとしてのスポーツの側面が丁寧に映し出されていました。
物語の中心となるのは、貧乏球団オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャーであるビリー・ビーン。限られた予算でどう勝ち続けるかという問いに対して、彼は既存の価値観を覆す手法で立ち向かっていきます。出塁率の高い選手を評価軸の中心に据えるというアプローチは、長年スカウトとしての経験を積んできたベテランたちからは理解されず、批判を浴びることになります。
しかしビリーは、過去に自らが「期待された野球選手」として潰されてしまった経験を背負いながら、合理的かつ冷静な判断を貫きます。その姿勢には強い信念が感じられ、自分の価値観を貫き通す姿は非常に魅力的に映りました。映画の中ではその背景が回想という形で効果的に挿入されており、主人公の動機に説得力を与えていたと思います。
中盤以降は、トレード期限を迎えた選手獲得の駆け引きが緊張感をもって描かれます。様々な球団と電話を繋ぎ、タイミングを見計らって決断していくそのスピード感が見どころのひとつになっておりました。選手への情や義理よりも「勝つこと」を優先し、あっさりとトレード通告をする冷静さには、日本のスポーツ文化との違いを感じさせられました。その一方で、本人はそれが「選手のため」とも考えていることが語られ、単なる冷徹な人物として描かれていないところに深みがありました。
また、クライマックスとなる連勝記録をかけた試合は、意外にも過度な演出がなく淡々と進んでいきます。感情をあおるような作りではなく、事実を積み上げていくような描き方がされていて、抑制の効いた演出が印象に残りました。主人公自身が試合を見ないというジンクスを持っているという点もユニークで、彼の性格をよく表していたと思います。
物語の終盤、ビリーは他球団からの高額オファーを受けることになりますが、彼がそれを断る理由が非常に象徴的でした。「人々は野球に夢を見る」というセリフに代表されるように、ただの勝利ではなく、「このチームで勝つこと」に意味を見出していたように感じられます。金銭的な余裕のある球団ならば理論を導入すれば勝てるかもしれないけれど、限られた戦力の中で成功を目指すその姿にこそ、人々は心を動かされるのかもしれません。
ひとつ個人的に気になったのは、「ゼネラルマネージャー」の立場とその権限についてでした。監督やコーチの上に立ち、選手の起用方法までも指示してしまう場面が描かれており、そのあたりの関係性が少し見えにくかった印象もあります。チームが勝っていれば受け入れられるかもしれませんが、結果が出なければワンマンと捉えられる可能性もあると感じました。
野球というスポーツの裏側にある数字と戦略、そして人の心の動き。そのすべてを丁寧に積み上げた作品だったと思います。華やかな演出は少ないながらも、じっくりと心に残る一作でした。
☆☆☆
鑑賞日:2016/05/20 Hulu 2025/07/05 Amazonプライム・ビデオ
監督 | ベネット・ミラー |
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脚本 | アーロン・ソーキン |
スティーヴン・ザイリアン | |
原作 | マイケル・ルイス |
出演 | ブラッド・ピット |
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ジョナ・ヒル | |
ロビン・ライト | |
フィリップ・シーモア・ホフマン | |
クリス・プラット | |
ケリス・ドーシー |