映画【黒社会】感想(ネタバレ):義理とメンツが交錯する、現代ノワールのドラマ

Triads: The Inside Story
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●こんなお話

 ヤクザ社会の揉め事の話。

●感想

 物語は、香港の裏社会に憧れる若者たちがボスに忠誠を誓い、義兄弟の契りを交わす儀式の場面から始まる。その後、アメリカで不動産業に従事している主人公と、香港でヤクザの親分として生きる父親とが電話で言葉を交わす場面へと移る。血の繋がった家族でありながら、遠く離れた場所で異なる人生を歩んでいる二人の距離が描かれていく。

 やがて、父親が他のヤクザ組織との交渉の場で出刃包丁を持った者に襲われ、命を落とすという事件が発生する。訃報を受けて急遽アメリカから帰国する主人公。父の葬儀に出席すると、父の子分たちから「親分の跡を継いでほしい」と懇願される。しかし、主人公はこれを固辞する。

 親分の座を断ったことで、主人公自身が何者かに襲撃される事態となり、身の危険を感じるようになる。争いを好まない主人公は、敵対するヤクザたちに縄張りを貸し出すという形で和解を図る提案を持ちかける。子分たちはその提案に従い、実際に縄張りを賃貸する形で表向きの平和は保たれる。

 しかし、それでも火種は燻り続け、ついには一部の子分が主人公の方針に不満を持ち、敵対組織の幹部を拉致し殺害しようと動き出す。主人公はその行動を止め、幹部を逃すことで争いの連鎖を断とうとする。そして、自身は再びアメリカへ戻る決意を固め、親分の座を子分の一人に託す。

 ところが、その子分が何者かに襲われ、妻を殺され自らも重傷を負ってしまう事件が発生。怒りに駆られた他の子分たちが報復に動こうとするが、相手のヤクザ組織は事件への関与を否定する。誰が本当の敵なのか、状況は混迷を極める。

 一方、実業家の顔を持つ裏社会の人物が関わった麻薬事件で、子分の一人が濡れ衣を着せられ、警察の捜査対象となる。主人公は子分を救うため、追手を振り切りながら調査を進め、ついには父親殺害の元凶となった人物を殺害する。

 だが、子分が自ら罪をかぶることで、主人公は表の世界へ戻る道を得る。香港の黒社会という舞台の中で、血と義理、欲と裏切りが交錯する物語が終息を迎える。

 香港の黒社会を通して、古い価値観と現代的な感覚が交差する描写が興味深く映りました。病院に行かず漢方でケガを治そうとしたり、何より「メンツ」が重要とされる世界観は作品全体のテンションに深みを加えており、興味深く観ました。

 ただ物語の構造としては、登場人物たちが感情のまま突き進んで内輪もめを繰り返す展開が多く、筋としての起伏にはやや乏しさも感じました。主人公が黒社会に入りたくないという立場でありながら、特に葛藤や変化も描かれず、やや淡白な進行だった印象です。

 また、主人公がどのように裏社会に巻き込まれ、どんな選択をしていくかという点についての掘り下げもあまりなかったため、表層的なエピソードの積み重ねという形で終始していたように感じました。ただ、100分という短めの尺で、香港ノワールの雰囲気を楽しむにはちょうどよく、キャラクターのやりとりや義理人情の描写など、娯楽作品としては成立していたと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2023/03/25 WOWOW

監督テイラー・ウォン 
脚本ナム・ヤン 
出演チョウ・ユンファ 
ロイ・チョン 
チャーリー・チャン 
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