映画【将軍様、あなたのために映画を撮ります】感想(ネタバレ):金正日の下で映画を撮り続けた、元夫婦の奇妙な運命

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●こんなお話

 韓国の映画監督と女優さんが北朝鮮に拉致されて映画作りをして脱北したまでを関係者のインタビューで紹介するドキュメンタリー。

●感想

 かつて名を馳せた韓国の女優が拉致され、絶望の中で暮らしていたところに現れたのは、彼女の元夫であり映画監督でもある男性だった。彼もまた北朝鮮に拉致されており、離婚後の二人が思わぬ形で再会を果たすことになる。

 二人は北朝鮮の指導者・金正日に招かれ、いや、むしろ強要されるかたちで映画制作を依頼される。その内容は娯楽性の高いものでありながら、体制への忠誠と国威発揚が強く求められるものであった。断る選択肢はなく、命を守るため、そして機会を待つため、二人は国内で次々と映画を製作していくことになる。

 作品は、実際にそのとき撮られた映像や映画監督の演出による再現映像、関係者たちの証言やインタビューを交えながら構成されており、当時の北朝鮮の映画事情や社会状況にも迫っていく。映像を通じて語られるのは、創作活動の裏側にある抑圧と管理、そして人々の生活と心のありようである。

 なかでも印象的なのは、極秘裏に録音された金正日の肉声が収められている点で、これは当時の内部事情を垣間見る貴重な資料となっている。また、北朝鮮で実際に上映された映画の一部も紹介され、プロパガンダと娯楽の狭間で作られた作品の実態が浮かび上がってくる。

 この映画を拝見して、まず強く感じたのは記録としての価値の高さです。ドキュメンタリーという形式を取りながらも、そこに含まれている素材ひとつひとつが貴重で、特に北朝鮮という閉ざされた国の映像資料や、金正日の肉声に触れることができた点は学術的にも意義があると思いました。

 とはいえ、語り口が終始淡々としていて、起伏が少ないために90分の上映時間がやや長く感じられる部分もありました。映像や構成に派手さはなく、素材を淡々と並べるスタイルが好みかどうかで、作品への印象が大きく変わってくるかもしれません。

 また、政治的背景や登場人物の関係性など、ある程度の予備知識が求められるため、映画に入り込むまでに時間がかかりました。それでも、国家という巨大な存在に個人が翻弄される構図や、創作という営みが時に命綱にもなるという逆説的な状況は、非常に印象深く残りました。

 独裁国家の中で自由を奪われた人々がどのように生き、何を表現し、何を残していこうとしたのか。その片鱗を映し出した本作は、ドキュメンタリーというよりは記録映画と呼びたくなるような誠実な作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日: 2017/02/25 NETFLIX

監督ロス・アダム 
ロバート・カンナン
出演チェ・ウニ 
シン・サンオク

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