映画【イップ・マン 継承】感想(ネタバレ):詠春拳の美学。迫力のアクションと静かな感動

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●こんなお話

 いつも通り悪い外国人と戦ったり奥さんとの日々を大切にする話。 

●感想

 イップ・マンが平穏な日々を送っているところに、突如として巻き起こる事件。西洋系の企業が学校の土地を強引に奪おうと画策し、その実働部隊となるのが、まさに絵に描いたようなチンピラたち。主人公イップ・マンとその弟子たちは、学校を守るべく自警団として立ち上がる。このあたりから物語は、アクション映画らしい勢いを持って動き始める。

 一方で、表に出てくる敵だけでなく、裏ではボクシング世界王者マイク・タイソンが動いているという噂も漂い、さらには別流派の詠春拳の使い手が現れるなど、複数の戦線が交差していく構成になっている。物語の主軸はぶれがちながらも、そのぶんイップ・マンが戦う相手は多彩で、見応えのあるバトルが次々と展開されていく。

 なんといってもこの作品の最大の魅力は、ドニー・イェンさんによる詠春拳の数々。大人数を相手にした立ち回り、エレベーターと階段を舞台にしたムエタイ使いとの死闘、そしてマイク・タイソンとの3分間限定の異種格闘技戦。どれもが流れるような所作と鋭い打撃の連続で、詠春拳そのものが芸術として立ち上がってくるかのような美しさがあった。川井憲次さんによる劇伴がさらに映像に厚みを与え、画面の中に力強さと静けさの両方を感じさせてくれる。何度でも繰り返し観たくなるアクションの数々で、映画としての勢いをしっかりと支えていたと思う。

 ただ、ストーリー全体の運びには少し戸惑う部分もありました。1作目の日本軍、2作目のイギリス植民地主義と戦う明快な構造と比べると、今作は物語の動機づけがやや不明瞭で、主人公の平穏な暮らしに外から問題が転がり込んでくるような印象が強く、登場人物たちの行動も少し強引に感じられました。

 たとえば序盤に登場するチンピラたちは非常に類型的なキャラクターで、2015年の作品とは思えないほどオーバーな演技が目立ち、やや時代錯誤なコント的演出に見えてしまうところがありました。さらに、子どもを拉致して主人公を脅す場面では、子役の演技が硬く、ただ泣いているだけの演出が続いてしまったことで、場面に対する感情の乗せ方がうまくできなかった印象もありました。

 物語が進むにつれて、マイク・タイソンとの一戦を経た後、彼の存在は自然と画面からフェードアウトしてしまい、そもそもの土地問題や西洋人の陰謀とのつながりも曖昧なまま次の展開へと進んでいきます。そこからは奥さんが病に倒れるという展開が軸となり、今までとは異なるトーンの物語が始まる。イップ・マンが社交ダンスを習いながら妻との時間を大切にしようとする描写が丁寧に差し込まれ、アクションだけではない人間ドラマとしての側面も色濃く描かれていく。

 同時に、序盤から地下格闘技の舞台で活躍していたカタキ役の男が、別の詠春拳の流派として名を挙げるために道場破りを繰り返し、イップ・マンに挑んでくる。最初は敵かと思わせておいて、途中から共闘し、また敵として戻ってくるという、複雑な立ち位置のキャラクター。その変化の理由がやや唐突で、観ている側としては混乱するところもありました。ただ、彼の持つ野心や孤独、それに同情してしまうような人間らしさも垣間見え、単なる敵役では終わらない深みがあったのも確かです。

 最終的にイップ・マンは妻との時間を何よりも優先しながらも、挑まれた戦いにはきちんと応じ、道場での一騎打ちも描かれる。このあたりの主人公の静かで一貫した姿勢は、シリーズを通しての彼の魅力そのものだったように思います。多くを語らないが、拳にすべてを込めるような佇まいが印象的でした。

 物語全体としてはまとまりを欠く印象もありますが、それでもアクションシーンの圧倒的な質の高さと、イップ・マンと妻との最後の日々が描かれる後半の静かな感動は心に残るもので、シリーズのひとつの節目としては意味深い作品だったように感じます。そしてやはり、木人椿を打つイップ・マンの姿には、言葉にならない美しさがあったと思います。

☆☆☆

鑑賞日: 2017/10/04 TSUTAYA TV 2020/06/27 NETFLIX

監督ウィルソン・イップ 
脚本エドモンド・ウォン 
出演ドニー・イェン 
マックス・チャン 
リン・ホン 
パトリック・タム 
カリーナ・ン 
マイク・タイソン 

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