●こんなお話
パートナーを見つけないと動物にされるという不条理な世界で生きる人たちの話。
●感想
恋人のいない人々がホテルに集められ、45日以内にパートナーを見つけなければ、動物にされてしまうという独特な世界観を持った物語。主人公はひとり身としてそのホテルに送られ、そこで「自分はロブスターになりたい」と申告する。理由は、水が得意だから、そして寿命が長いから。すでに犬になってしまった兄を連れてきており、彼自身もそれに続く運命に直面している。
ホテルでは、規則正しく整った生活が続いていて、パートナーを得られない者たちは、森にいる「独り者」を麻酔銃で捕らえるという役割を与えられている。1人捕まえるたびに滞在期限が延長されるシステムのもと、主人公も森に出ていく。そしてあるとき、偶然出会った女性とパートナーになり、これで自分も人間のままでいられるかと一安心したのも束の間、その女性が兄を殺していたことを知り、やがて主人公はホテルを抜け出し、森で暮らす「独り者の集団」の元へと向かう。
この集団は恋愛を禁じており、そこで主人公は近視の女性と出会いながらも、その感情を表に出せないでいる。しかし二人はやがて互いに惹かれ合い、こっそりと関係を深めていく。だが集団のリーダーに気づかれてしまい、彼女は罰として視力を奪われてしまう。それでもなお主人公は彼女を支え、ある決断を下す。果たして二人の関係は続いていくのか、それとも…。という。
作品全体が静かで、語られすぎない語り口が特徴的です。基本的にはモノローグと淡々とした演出で構成されていて、登場人物の感情はあくまで控えめに、説明されすぎることはありません。観客は断片的に提示される情報をもとに、自分で物語を補っていくことが求められます。正直、事前に「恋人がいないと動物にされる世界」という設定を知っていなければ、その構造を理解するのにも時間がかかるかもしれません。
物語は基本的にヒロイン側の語りで進んでいきますが、これもあまり明確には示されず、冒頭で牛を撃つ女性が登場したときも、その意味するところを完全に把握するのは難しい構成になっています。もしかするとその女性は兄を殺した人物で、牛になった兄を射殺したのかもしれない、あるいは近視の女性が牛となった彼に寄り添っていたのかもしれない……と、観ている間ずっと考えを巡らせていました。
映像はとても端正で、シュールな空気が全編に漂っていました。はっきりとした起承転結を持つエンタメ作品とは異なり、説明よりも空気と感情、沈黙の余白で物語が紡がれていきます。それでも、不思議と目を離せない120分で、登場人物の誰もがどこか遠い存在でありながらも、心のどこかに残る印象深さがありました。
この世界では、「恋愛」もまた制度の中に組み込まれていて、その中で人々がどうやって生きようとするのかが描かれています。愛を探すことが義務である世界と、愛を禁止された世界、その両極端の間で揺れる人間の姿が、どこか現代の人間関係の不安定さとも重なり、不思議な共感を呼びました。
☆☆☆
鑑賞日: 2016/11/01 DVD
監督 | ヨルゴス・ランティモス |
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脚本 | ヨルゴス・ランティモス |
エフティミス・フィリップ |
出演 | コリン・ファレル |
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レイチェル・ワイズ | |
ジェシカ・バーデン | |
オリビア・コールマン | |
アシュレー・ジェンセン | |
ジョン・C・ライリー | |
レア・セドゥ | |
ベン・ウィショー |
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