●こんなお話
ある宿場町にやってきた浪人が2つのヤクザが対立していてヤクザの間を行ったり来たりしてお互いを潰しあわせるという話。
●感想
主人公である浪人・三十郎がふらりとある宿場町に現れる場面から始まります。町にはどこか不穏な空気が漂っており、三十郎が飲み屋に入ると、そこの主人が親切にも現在の町の状況を説明。かつてこの町を治めていた古株のヤクザと、その一の子分だった人物が対立しており、新興勢力と古参勢力が睨み合いを続けているとのこと。
三十郎はまず新興ヤクザのもとを訪れ、見事な腕前で3人を殺害。その力量をもって今度は古株ヤクザ側に接近します。ところが、彼らが三十郎を利用した後に殺そうとしているという話を耳にします。そこで三十郎は「後ろから斬られるのはごめんだ」として、その場を離脱。
まさに戦争が始まりそうな緊迫した状況の中、「関八州が来た」との報が入り、殺し合いは一時中断されます。それぞれのヤクザたちは関八州を接待しますが、その間は争いが起きないため町の経済が停滞し、困り果てるという展開に。
その後、関八州が近隣で発生した殺人事件のために町を去ることになり、再び抗争の火種が燃え上がります。三十郎は新興ヤクザの一員でありながら解雇された子分の愚痴を聞き、その子分が殺人事件の犯人であると見抜き、古株ヤクザに引き渡します。これがきっかけで、新興ヤクザは古株ヤクザの息子を誘拐し、人質交換へと発展。
人質交換の現場で、三十郎は新興ヤクザの用心棒となるよう迫られますが、そこでスポンサーの妾が関係していることを知ります。彼は妾の護衛不足を理由にその屋敷を訪れ、護衛を殺害し妾とその家族を逃がすという大胆な行動に出る。
妾を古株ヤクザに奪われたと思い込んだ新興ヤクザたちは、古株側のスポンサーを襲撃。両者の全面戦争が始まります。その中で、三十郎の裏切りに気づいた新興ヤクザの子分が彼を拷問しますが、三十郎は何とか脱出し、再び飲み屋に身を寄せます。
新興ヤクザはついに古株ヤクザを壊滅させ、勢力を拡大。しかし、飲み屋の主人が捕まったと知った三十郎は、最終的に新興ヤクザたちを相手に怒涛の斬り合いを繰り広げ、皆殺しにして三十郎が去っておしまい。
この作品の最大の魅力は、何と言っても主人公・三十郎の存在感と格好良さにあります。彼だけでなく、拳銃を使う敵役・卯之助、力は強いが頭が弱い猪之吉、恐妻家の親分・清兵衛、金に目がくらむおりん、戦いを避ける医者・本間先生、ため息ばかりの棺桶屋など、脇を固めるキャラクターたちも個性豊かで、それぞれが画面に登場するだけで観ていて楽しくなる存在でした。
さらに、台詞のひとつひとつが印象的で、「全く可愛い面してるな、お前たちは」「じゃあ、叩き斬られても文句はねえな」「全く馬鹿につける薬はねえな」「斬られりゃ、いてえぞ」「刺身にしてやる」など、真似したくなる名言が次々と飛び出します。
三十郎がどのようにして清兵衛一家と丑寅一家を潰していくのか、また彼の計画がいつバレるかというサスペンス、さらに一気に決まるスピーディーな殺陣の演出が見事です。望遠レンズを駆使した映像は画面に圧力を与え、特に室内での顔のアップなどは、画面が人物の表情だけで埋まるほどの迫力があります。
佐藤勝氏によるメインテーマも耳に残る素晴らしい楽曲で、映像と音楽の相乗効果によって、作品の完成度がさらに高められています。
唯一、ライバルである卯之助の登場がやや遅く感じられるかもしれませんが、本作の主軸はあくまで宿場町の全体的な抗争にあるため、物語の構成としては違和感はありませんでした。
総じて、娯楽活劇として非常に完成度が高く、時代劇映画の中でも傑出した一本であると思いました。
☆☆☆☆☆
鑑賞日:2018/12/16 DVD 2024/08/18 U-NEXT
監督 | 黒澤明 |
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脚本 | 菊島隆三 |
黒澤明 |
出演 | 三船敏郎 |
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東野英治郎 | |
河津清三郎 | |
山田五十鈴 | |
太刀川寛 | |
清水元 | |
天本英世 | |
佐田豊 | |
大木正司 | |
藤田進 | |
山茶花究 | |
加東大介 | |
仲代達矢 |