●こんなお話
ハリウッドの富裕層の地域をぐるっとめぐる話。
●感想
知り合った女性が突然失踪してしまうという出来事をきっかけに、彼女の行方を追っていくという王道のサスペンス構成で物語が進んでいきます。そのスタート地点は比較的シンプルでわかりやすい導入となっておりますが、物語が進むにつれて、サブリミナル的な小物や意味深なシーンが巧妙に挿入されていき、観ているこちらに多くの解釈を促すような演出が特徴的です。
そのため、鑑賞中は常に情報の断片を拾い集めながら物語を読み解いていく必要があり、観客によっては混乱する場面もありました。そうした作風ゆえに、本作は「好き・嫌い」がはっきり分かれるタイプの映画であると感じました。映像や物語を直感で受け止める方もいれば、細部に仕込まれたメッセージを読み解くことに楽しみを見出すのを楽しんだり。
作品全体としては、一歩引いた視点から描かれており、主人公は街をあちこち歩きながら、そこで出会った様々な人物と交流するという流れが繰り返されます。しかしその主人公自体、家賃を滞納していて経済的に困窮しているように見えるにもかかわらず、なぜか車を所有し、街中を自由に移動する時間的余裕もあるという、どこか現実離れした存在であり、あえて感情移入を遠ざけるような作りがされているように感じました。
とはいえ、物語の中で提示される謎を少しずつ解きながら、それを頼りに次の場所へと進んでいく探偵的な面白さもあり、陰謀論や都市伝説のような要素が絡んでくる展開には、特有の楽しさがありました。とくに、「ゼルダの伝説」が劇中に登場するシーンには驚かされ、思わず笑ってしまうような楽しさもあります。こういった意欲的なオリジナル脚本で、自由度の高い表現がなされている点も評価したい部分です。
謎を解いてその場所へ赴くと、さらに謎めいた人物や不思議な空間が現れ、物語がまた混沌としていくという展開の連続で、現実と妄想、あるいは異世界との境界線があいまいになっていく構成も見どころのひとつです。ただし、劇中に登場するサブカルチャーの知識があまりない私には、その面白さをフルに享受することはやや難しかったという印象も否めませんでした。
その結果として、異世界や夢と現実の境界が曖昧な“ぐらぐらと揺らぐ感覚”を楽しむしかないという鑑賞体験になってしまいました。とはいえ、解釈の余地が広く、視聴者によって全く異なる受け取り方ができる作風は、近年では珍しく、挑戦的かつユニークな映画だったと思います。多層的な視点で読み解く余白を残したい方には、非常に魅力的な一作であると感じました。
☆☆☆
鑑賞日: 2020/03/13 wowow
監督 | デヴィッド・ロバート・ミッチェル |
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脚本 | デヴィッド・ロバート・ミッチェル |
出演 | アンドリュー・ガーフィールド |
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ライリー・キーオ | |
トファー・グレイス | |
ゾーシャ・マメット | |
キャリー・ヘルナンデス | |
パトリック・フィスクラー | |
グレイス・ヴァン・パタン | |
ジミ・シンプソン |