●こんなお話
人間の脳の意識さえデータにして転送できるスーパーコンピュータを研究する主人公が、技術革新に反対するテロ組織に暗殺されて、意識をスーパーコンピューターに転送して成功するけど、ネットに接続して膨大な知識を見につけて、再生医療とかで人々を治療していくけど、その目的がわからなくなって不安になって行くヒロインとか人間たちの話。
●感想
物語は、科学技術が人類の領域を超え始めた時代を描く硬質なSFの雰囲気で幕を開ける。冒頭では、急速に発達する人工知能やコンピュータによる意識のデジタル移行といったテーマが丁寧に語られ、観る側の期待をぐっと引き寄せる空気があった。科学とは何か、人間の精神はデータ化できるのか、という問いが冒頭から投げかけられ、じわじわと知的好奇心を刺激されます。
そうした中、物語の中盤からは、主人公が事故をきっかけにコンピューター上に意識を移すという大胆な展開を迎える。ここから映画のトーンは一気に変わり、フィジカルなアクションやサスペンス要素よりも、抽象的かつ哲学的な対話と内面の葛藤に重きが置かれていく。科学が人間を超えたとき、その先にあるものは神なのか、それとも怪物なのかという問いに対して、映画は真正面から静かに向き合おうとする。
しかし、主人公が完全に“機械”となって以降のパートは、映画としてのテンポがゆるやかになりすぎる印象を受けました。画面に映る出来事よりも、概念や思想が前に出る構成で、観客がその世界に入り込むには少々集中力を必要としました。娯楽性という点では、やや難解さが先行してしまう部分もあったように思います。
終盤、主人公が下す決断は、壮大なテーマを締めくくるにふさわしい選択ではあるものの、感情面での説得力には少し届かなかった印象が残りました。夫婦の愛や人と人とのつながりを描こうとする意図は伝わってきますが、そのためにはもう少し序盤から夫婦の関係性や信頼の積み重ねがしっかりと描かれている必要があった。突然の自己犠牲を美談として受け止めるには、心の準備が足りなかったというか、物語の積み上げが少なかったと感じました。
また、物語をかき乱すテロ集団についても、当初は典型的な敵対勢力として登場するが、いつの間にか味方のような立ち位置へと変化していく。立場や関係性の変化についての描写が唐突で、観ている側がその転換に気づかないうちに物語が先へ進んでしまう。個々のキャラクターが持つバックグラウンドや動機について、もう一段深く描かれていれば、より納得のいく流れになっていたと思う。
全体を通して、非常に壮大なテーマと挑戦的な演出に挑んだ作品であることは間違いなくて。ただ、その分、映画自体がある種の“トランセンデンス=超越”をしてしまっていて、観客の思考がそれについていくのが難しいと感じる場面もあったり。とくに私のように、日常生活のなかでそこまで深い哲学的問いを意識していない人間にとっては、物語の根底に流れる思想やメッセージを完全に受け取るのはなかなかハードルが高かったです。
とはいえ、こうした挑戦的な映画が生まれ、それを形にする試みがなされたこと自体には素直に感心して。テーマの重さや映像の静謐さ、そして全体に通底する倫理的ジレンマが印象に残る一本でした。
☆☆
鑑賞日:2014/12/16 Blu-ray
監督 | ウォーリー・フィスター |
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脚本 | ジャック・パグレン |
出演 | ジョニー・デップ |
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