●こんなお話
親友3人の警官が潜入捜査とかで疲労困憊になりながらタイの麻薬王を捕まえようとする話。
●感想
長年、潜入捜査に身を置いてきた男がいた。組織の裏に潜り込み続けてきた日々は、名誉や昇進を手に入れる道でもありながら、心と身体を削り取る時間でもあった。そんな彼の家では、臨月を迎えた妻が、帰りを待つことにも疲れ果て、押し寄せる不安に言葉を失っていた。
物語は、香港の麻薬組織を相手にした捜査線から始まる。主人公たち3人はそれぞれ異なる立場で潜入し、複雑な信頼関係の網をくぐり抜けて、ようやく大物に手が届くというところまでたどり着く。しかし、直前で上層部の指示により作戦は中止となる。タイの麻薬王逮捕が最優先との判断。命を賭けた捜査が政治的な都合で流れる理不尽に、捜査官の1人は怒りを露わにする。
それでも、長い潜入任務の中で築かれた信頼が、3人の間にはしっかりと息づいていた。ある夜、ふと口ずさんだ昔の歌に、他の2人が自然と声を重ねる。言葉少なに、だが確かに心を通わせている時間が流れる。仕事で築いた絆というものは、理屈では測れない力を持っているのかもしれない。
やがて彼らはバンコクへと移動し、現地の警察と協力して麻薬の取引現場を急襲しようとする。しかし、そこにも内通者の存在があり、作戦は大きく崩れる。突如として現れるヘリからの攻撃に、警察部隊は壊滅状態となり、主人公たちは命からがら崖へと逃げ込む。だが逃げ場はなく、眼下にはワニがうようよと泳いでいる川。そこに突きつけられるのは、残酷な選択。「3人のうち、1人を殺せ」——命の重みを背負わされる決断を迫られる場面が、緊張感を極限まで高める。
そして時は流れ、5年後。かつて潜入捜査をしていた男は、捜査部門のトップへと昇進していた。一方、上司だった主人公は責任を取る形で第一線を退き、窓際の席に身を置いている。そんな時、タイの麻薬王の息子が殺されたというニュースが届き、再び捜査の機運が高まる。
驚くべきことに、そこで再会するのは、あの日崖から落ちて死んだはずの仲間だった。彼はなんと生き延びており、しかも麻薬王の娘と結婚していた。死んだと思われていた男がなぜ生き延び、敵の中心に入り込んでいたのか。その真相は、少しずつ回想の中で語られていく。幾多の危機をくぐり抜けた末に辿り着いた人生の選択がそこにあった。
物語は最終局面へと向かう。銃を向け合い、ぶつけ合った思いがあるからこそ、深く通じ合える瞬間が訪れる。主人公たちは再び手を取り合い、麻薬王逮捕へと立ち上がる。誘拐された主人公の妻と娘を救うため、彼らは再び危険に飛び込んでいく。
クライマックスは、レストランを舞台にした銃撃戦。影武者の策略に嵌められた形で始まるこの戦いで、主人公たちは互いの死角をカバーしながら背中を預け合う。壮絶な銃撃の中、次第に仲間が倒れていき、最後は麻薬王が自らマシンガンを持って立ちはだかる。銃弾の尽きた中、主人公の1人が囮となり、命を張って敵に立ち向かう。その自己犠牲の瞬間には、映画ならではの熱と哀しみが溢れていたように感じます。
上映時間130分という長さの中に、濃密な人間関係、迫力あるアクション、そして揺れ動く正義と友情が詰め込まれており、非常に見応えのある作品だったと思います。潜入捜査という設定が、ただのスリルだけではなく、個々の人生に深く影を落とすという描き方も丁寧で、観終えた後に静かに考えさせられる余韻もありました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2022/02/01 Amazonプライム・ビデオ
監督 | ベニー・チャン |
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アクション監督 | ニッキー・リー |
脚本 | ベニー・チャン |
マンフレッド・ウォン |
出演 | ラウ・チンワン |
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ルイス・クー | |
ニック・チョン | |
ロー・ホイパン | |
ヨランダ・ユアン | |
ヴィタヤ・パンスリンガム | |
バーグ・ウー | |
ロー・ワイコン | |
シン・ユー |