●こんなお話
南極基地で「それ」に襲われて疑心暗鬼になる隊員たちの話。
●感想
1匹のシベリアンハスキーを追って、ノルウェーの隊員が銃を撃ちまくってくる衝撃のオープニング。何も知らないアメリカの基地の人たちと同じく、「一体この人は何をしているんだ?」という疑問から始まるつかみの強さが印象的です。ノルウェーの隊員は結局アメリカ側に射殺され、何が起きたのかを調査する流れに。
アメリカの隊員たちはノルウェーの基地を調べに行くと、建物は燃えていて、何かが焼かれた形跡がある。生き物らしきものが無惨に変形したまま焼け焦げていて、その不気味さに一気に緊張感が高まる。そしてアメリカの基地に戻っていた最初のシベリアンハスキーが、突如として…という。
そこから登場するクリーチャーの造形が圧巻で。ロブ・ボッティンによる驚異の特殊効果は、今見ても圧倒される職人芸。肉体が裂け、頭が分離し、異様な姿に変化していく過程は目を背けたくなるほどグロテスクで、それでいて美しいです。
恐ろしいのは、「それ」が人間の姿に擬態できるという点。誰が感染しているのか、登場人物にも観客にもわからない。極限の閉鎖空間の中、全員が疑心暗鬼に陥っていく展開が見事。調査の結果、突如現れるクリーチャーのド迫力に毎回驚かされます。
血液からにじみ出る未知の成分、気づけば近くの人が「それ」に取り込まれ、少し目を離しただけでどこかに消えてしまう。そして次に現れたときはもう人間の形になりかけていて、誰も信じられないという心理サスペンスが延々と続きます。この描写の積み重ねが本作の恐怖を生んでいると思いました。
ある隊員は精神的に追い詰められ、ヘリや無線を破壊してしまい、「それを外に出しちゃいけない」と暴れだす。その結果、基地は完全に孤立状態に。血液検査で正体を暴こうとするが、保管していた血液が何者かに破壊され、「誰がやった?」「俺じゃない」「お前だ!」とますます疑いが深まっていく。
主人公も一度1人で外に出たことで疑われ、もみ合いの末に拘束される。その状態で血液検査を実行するが、ここからの展開がまた強烈。すぐ隣でクリーチャーがトランスフォームするシーンは、観ている側も思わず「早くほどいてやってくれ!」と叫びたくなる緊張感。閉鎖空間ホラーの恐怖が詰まっていました。
クリーチャーの目的が「人間を凍死させて冬眠し、新たな犠牲者を待つこと」だと気づいた主人公は、基地ごとすべてを焼き払う決意を固める。もはや自分の生存よりも、「それ」をこれ以上外に出さないために燃やすしかない。そんな決断の重さと、最後まで続く不穏な余韻が忘れられない1作でした。
☆☆☆☆☆
鑑賞日:2009/09/06 Blu-ray 2014/12/26 Hulu 2022/02/18 DVD 2025/05/21 DVD
監督 | ジョン・カーペンター |
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脚本 | ビル・ランカスター |
原作 | ジョン・W・キャンベル・ジュニア |
出演 | カート・ラッセル |
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ウィルフォード・ブリムリー | |
デイヴィッド・クレノン | |
キース・デイヴィッド | |
リチャード・ダイサート |