●こんなお話
アメリカとメキシコの国境で密入国した母子をいかつい男たちから救ったこときっかけで追いかけっこする話。
●感想
物語の舞台はアメリカとメキシコの国境沿い。乾いた大地に囲まれた土地で、小さな牧場を営む主人公は、密入国者を見つけては国境警備隊に通報するという日々を送っている。暮らしは楽ではなく、銀行からは滞納の催促が届き、静かな生活の裏には多くの重荷を抱えている。数年前には最愛の妻を癌で失い、心にぽっかりと穴が空いたまま、生きがいを見出せないままの時間が流れていた。
そんな彼を時折訪ねてくれるのは、亡き妻の連れ子である義理の娘。彼女は国境警備隊に所属していて、公私の狭間で職務を全うしながらも、主人公のことを心配して時折顔を見せる。言葉少なではあるが、家族としての絆がわずかに感じられる関係性が印象的に描かれている。
一方その頃、メキシコでは麻薬カルテルに金を横領したとされる男が激しい拷問を受けていた。その家族も危険に晒され、逃れる術として国境を越える決意をする。逃走の最中、国境付近でカルテルの追手に見つかり、緊迫の場面の中で偶然居合わせたのが主人公だった。そこで銃撃戦となり、母親は命を落とす寸前、最後の願いとして主人公に息子をシカゴまで連れて行ってほしいと託す。
最初は国境警備隊に引き渡そうとした主人公だったが、彼女の遺言の重みが胸に残り、やがて少年を連れてシカゴまで向かうことを決意する。かつて戦地で過ごした元海兵隊としての過去を持つ彼が、再び銃を手に取り、少年を守る旅が始まる。年老いた男が抱える孤独と、再び心に火を灯していく様が静かに描かれていく。
広々とした画面に映る国境沿いの荒涼とした景色や、砂ぼこりが舞う乾いた道路。そこに立つリーアム・ニーソンの渋みと哀愁は、言葉以上に多くのことを語っていて、観ている側としてもその空気に浸る時間が心地よかったです。アナログな主人公と、ハイテクを駆使して追跡を続けるカルテルとの対比も面白く、追いかける者と追われる者の差が、まさに時代のズレとして描かれていたのも印象的でした。
ただ、追手である麻薬カルテル側が主人公の居場所をクレジットカード頼りで探していたため、主人公が現金のみで生活し始めると、一気に手詰まりになってしまう展開には少し緊迫感がそがれてしまった印象もありました。追跡の手段が限られ、手がかりがなくなるとただ車内でじっと待つ男たちの姿は、どこか不思議な間抜けさすら感じてしまうシーンもあって、そこに若干のユーモアを感じる場面もありました。
また、少年が地図にわざわざ目的地を書き込んで、それをうっかり落としてしまうという展開も、あまりにも偶然が過ぎるように思えて、物語の中でのリアリティを少し薄めてしまったように感じました。その地図を敵が拾い、「シカゴだ」と察するシーンなども、もう少し別の形で導けたのではないかと思います。
アクションシーンでは、元兵士の経験を活かして次々と追手を狙撃していく主人公の姿が描かれますが、なぜ最初からボスを狙わないのか、と考えてしまう部分もありました。もし、ボスを狙えない事情や葛藤が描かれていたら、その順番に意味が生まれて、より深みのある展開になったかもしれません。
少年の描かれ方についても、母を目の前で亡くしたという状況にもかかわらず、感情の揺れがあまり見えず、グミを食べて笑っていたり、「シカゴでホットドッグを食べたい」と話す様子が、観ていて少し理解しづらい部分でもありました。もっと揺れる心や不安、恐怖といった感情の描写があれば、旅の意味がより深く響いたのではないかと感じます。
とはいえ、全体的には淡々とした演出の中にじんわりと情感がにじみ、重苦しくなりすぎず、終始穏やかに楽しめる一本だったように思います。地味ではあるものの、骨太なテーマと確かな俳優の存在感に支えられた映画で、娯楽作品としても十分に味わい深い作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2022/01/20 T・ジョイPRINCE品川
監督 | ロバート・ロレンツ |
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脚本 | ロバート・ロレンツ |
クリス・チャールズ | |
ダニー・クラビッツ |
出演 | リーアム・ニーソン |
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キャサリン・ウィニック | |
フアン・パブロ・ラバ | |
テレサ・ルイス | |
ジェイコブ・ペレス |