映画【ガス人間第1号】感想(ネタバレ):本多猪四郎監督の異色特撮サスペンス

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●こんなお話

 ガス人間が現れる話。

●感想

 都内の富田銀行で強盗事件が発生する。犯人グループは現金を奪い車で逃走するが、警視庁の岡本賢治警部補が追跡すると、五日市街道で車が横転しているのが発見される。ところが車内にも周囲にも犯人の姿はなく、現場は密室のような状態だった。

 数日後、東海銀行でも同様の手口の強盗が起き、行員が不可解な窒息死を遂げる。検死の結果、体内に特殊な気体が入り込んでいたことが判明する。犯人は物理的に侵入不可能な金庫室から現金を持ち去っていた。岡本は東京新報の記者で恋人でもある甲野京子とともに独自に調査を進め、犯人の逃走経路が日本舞踊春日流家元・春日藤千代の屋敷付近で途絶えていることに気づく。

 藤千代はかつて名声を誇った舞踊家だが、近年は困窮していた。それにもかかわらず急に高級車を乗り回し、絶縁していた弟子たちを呼び戻し、新作舞踊「情鬼」の発表会を企画している。警察は強盗で奪われた紙幣番号が藤千代のもとで確認されたことから彼女を拘束する。

 その直後、「自分が犯人だ」と名乗る男・水野が出頭する。水野は取り調べ室で自らの身体を白いガス状に変化させ、鉄格子をすり抜け、密閉された部屋を自在に移動する能力を実演する。さらに警官を窒息させることで、これまでの犯行が可能であったことを示す。

 水野はかつて図書館司書として働いていたが、田宮博士と佐野博士による人体実験に参加し、分子構造を変化させる実験の失敗によってガス化能力を得たと語る。本来は宇宙開発などを見据えた研究だったが、事故により水野だけが特殊体質となった。

 水野は藤千代に強い思いを寄せており、彼女の舞踊を復活させるために強盗を繰り返していた。藤千代もまた水野の正体を知りながら金を受け取っていたことが判明する。警察は発表会当日に水野を一網打尽にする計画を立て、会場に警官を配置する。

 発表会当日、観客が退避させられた舞台上で藤千代は「情鬼」を踊り終える。そこにガス化した水野が現れ、藤千代を抱き寄せる。警察は建物を爆破しようとするが、水野は藤千代を守ろうとする。藤千代が持っていたライターの火が水野のガスに引火し、大爆発が起きる。

 炎と爆煙の中、水野は藤千代とともに消滅する。人体実験が生んだ「ガス人間第1号」は、その能力と愛のために自らを燃やし尽くす結果となったのだ、でおしまい。


 冒頭の銀行金庫室の扉がひとりでに開く場面から一気に引き込まれました。追跡した車が横転しているのに犯人が消えているという展開も印象的で、特撮サスペンスとして非常に強い導入だったと思います。

 途中で犯人が自ら出頭する構成は意外性がありました。さらに自分がガス人間であると証明するために能力を見せつける展開は大胆で、物語が大きく転換します。実演の過程で命が奪われる描写は衝撃的で、人体実験の影響によって倫理観が崩れているのかと考えさせられました。

 正体が明かされてからは怪奇犯罪劇から悲恋物語へと比重が移ります。警察側も逮捕より殲滅を優先する姿勢を見せるという発想も大胆でした。クライマックスの日本舞踊発表会は時間をかけて描写され、その静謐な舞台と特撮による爆発が対比される構成が独特の空気を生み出しています。

 一方で、自由自在に移動できる存在がなぜ車で逃走したのか、ガス化しても会話や物理的接触が可能な仕組みは何かといった疑問は残ります。ただ、それらを含めても人体実験によって異形の存在となった男の純粋な恋心を描いた物語として強い印象を残す作品でした。特撮映画でありながら人間ドラマを中心に据えた構成は、本多猪四郎監督らしい一作だと感じました。

☆☆☆☆

鑑賞日:2010/01/30 DVD 2026/03/23 U-NEXT

監督本多猪四郎 
特技監督円谷英二 
脚本木村武 
出演三橋達也 
佐多契子 
土屋嘉男 
八千草薫 
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