●こんなお話
有名な登山家が後輩が遭難死したので遺体をそのままにしておけないってんで登山隊を組んでアタックする話。
●感想
主人公は経験豊富な登山家で、彼を敬愛する後輩やその仲間たちと共に、過酷な雪山に挑む物語が描かれる。前半は、登山家たちの人間関係がじっくりと丁寧に描写され、信頼や絆、そして自然に向き合う覚悟のようなものが静かに積み上げられていく。彼らの小さなやりとりや表情の変化から、山に登るという行為がどれだけ精神を問われるかが伝わってくる。厳しい環境下でこそ見える友情や、命を預けあう仲間としての結びつきが、山の空気とともにじんわりと沁み込んでくるような序盤でした。
そんな穏やかな空気は、ある出来事を境に急速に変化していく。後輩のひとりが不慮の事故で遭難し、ついには命を落としてしまう。遺体はそのまま雪山に取り残されることになり、主人公は「仲間を連れ帰りたい」という強い想いから、新たに登山隊を編成して遺体を回収しに行く決意をする。そこから物語は後半へと加速し、登山という行為が持つ過酷さと、人の想いが交差する激しいドラマが展開されていく。
後半の盛り上がり方は、まさに韓国映画ならではの情熱的な演出が光っていた。登場人物それぞれが感情を爆発させる場面が多く、劇伴音楽も力強く観る側を引き込んでいく。登山隊のメンバーが困難に直面しては声を荒らげ、仲間を想って叫び、時に涙を流すその姿は、少し過剰とも取れるほどに熱い。観ていて圧倒されながらも、気がつくと自然と心が動いてしまう、そんな熱量を感じました。
ただ、物語の根幹が「亡くなった仲間のために」という一点に絞られている分、登山そのもののリアリズムや、準備・費用面の描写がほとんど見えなかった点は少し気になるところでした。雪山に向かうという行為には膨大なリスクと資金がかかるはずで、どのようにそれを可能にしたのか、もう少し背景が描かれていると説得力が増したようにも感じました。周囲の国の登山者たちが、天候や安全のために救助を断る場面で、韓国の登山隊がそれを感情的に非難する展開などもあり、やや視点のバランスを欠いていたように思います。
それでも、本作はファン・ジョンミンさんの存在がすべてを引き締めていたように思います。彼が演じる主人公には、言葉では語り尽くせない重みと覚悟が宿っていて、何気ない視線や息づかいだけで、その人物の過去や信念が立ち上がってくるようでした。静かな場面でも観る者を惹きつける演技力には、圧倒されるばかりです。映像としても、雪山の美しさと恐ろしさが共存する画が非常に美しく、白銀の世界に包まれるたびに、自然の偉大さと人間の儚さを感じさせられました。
不満点がなかったわけではありませんが、気がつくと心の中に残るものが確かにありました。登山という極限の環境を背景に、ただひたすらに「人を想う」ことを描いた作品だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日: 2017/02/08 DVD
監督 | イ・ソクフン |
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脚本 | スオ |
ミン・ジウン |
出演 | ファン・ジョンミン |
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チョンウ | |
チョ・ソンハ | |
キム・イングォン | |
ラ・ミラン | |
チョン・ユミ |
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