映画【黒衣の刺客】感想(ネタバレ):映像美が語りかける、静寂と詩情の一篇

the-assassin
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●こんなお話

 唐時代の中国で黒衣の刺客を中心になんかいろいろやる話。

●感想

 冒頭、画面サイズがスタンダードのモノクロ映像から始まる構成にまず目を引かれ、そこからカラースタンダード、さらに一部ビスタサイズと、画角の変化を通して作品世界への導入がなされていきます。映像そのものが物語を語るかのように、映画全体に通底する表現へのこだわりが感じられました。

 色彩の演出も非常に繊細で、光と影の使い方や、建物の色、衣装や自然物の配置など、まるで一枚一枚のカットが絵画で構成されているかのようでした。舞台美術や小道具の位置ひとつひとつにも意味が込められているように思えますし、背景で鳴く虫や鳥の声さえも演出の一部として取り込まれているような印象を受けました。まさに映像による詩と呼びたくなるような、視覚と聴覚を通して深く静かに訴えかけてくる作品だったと思います。

 一方で、物語の運びに関しては非常に淡々としており、観客にあまり多くを語りかけてはこない印象がありました。人物たちがなぜそのような行動を取るのかといった動機の説明も最小限にとどめられているため、作品に寄り添うまでにはある程度の集中力と忍耐を要する時間が続いていきます。会話も少なく、ゆったりとしたテンポで静かに物語が進行していくため、劇場の暗がりと相まってどうしてもまぶたが重くなってしまう瞬間もありました。ただ、それもまた本作が意図的に構築したリズムと考えると、そうした静けさに身をゆだねるような観方が求められる映画なのかもしれません。

 登場人物の立場や背景も非常に控えめに描かれており、とくに妻夫木聡さん演じる人物については、鑑賞中は彼が一体どこの国の人なのか、どういった立場にあるのかすら分からず、あとから遣唐使という設定だったと知って驚かされました。あえて観客にすべてを明かさず、受け取る側に想像や補完を委ねる構成になっていたのかもしれませんが、その分、物語の把握にはやや苦労しました。

 ただ、映し出される風景には圧倒されました。日本の古刹や中国の山奥など、時間と空間を越えて存在する場所を旅するような感覚があり、そこに身を置いているような没入感が味わえる時間でした。建物の佇まいや自然のたたずまい、それらに調和する音の演出など、視覚的・聴覚的に豊かであり、物語の静けさとは対照的に映像表現の雄弁さが際立っていたと思います。

 物語性を強く求める方にはやや敷居の高い一本かもしれませんが、映像芸術としての強度と美しさに満ちた作品であったと感じました。

☆☆

鑑賞日: 2015/09/25  渋谷TOEI

監督ホウ・シャオシェン 
脚本チュウ・ティエンウェン 
ホウ・シャオシェン 
チョン・アーチョン 
シェ・ハイモン 
原作ハイ・ケイ
出演スー・チー 
チャン・チェン 
妻夫木聡 
忽那汐里 
シュー・ファンイー 

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