映画【本当の僕を教えて】感想(ネタバレ):双子の記憶と母の秘密を描く感動のドキュメンタリー

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●こんなお話

 事故で記憶をなくして男性が双子からいろいろ記憶喪失時代のことを教えてもらって幸せに暮らしていたけれど、母親の死をきっかけに少年時代に何があったのかわかっていく話。

●感想

 画面いっぱいに広がるのは暗く重いトーンの映像。その中で、カメラに直接語りかける二人の男性が現れる。一人は若くして事故に遭い、十八歳の時に記憶をすべて失ってしまった男。もう一人はその双子の兄弟で、記憶をなくした彼に「ここは寝室だ」「これが母親だ」「ここがシャワーだ」と一つひとつを教えていく。記憶喪失の男は、双子の言葉だけを頼りに世界を再構築し、無条件に信じて生きていく。家庭には母親もいて、父親は非常に厳格で恐れられる存在だったと語られる。

 物語の前半三十分は、記憶をなくした側の視点から描かれる。失われた時間を兄弟の説明で埋め合わせながら、家族や友人と穏やかに暮らしていく姿が綴られる。しかしやがて父親が亡くなり、母親もこの世を去る。母の部屋を訪れたその瞬間から語り口が変わり、今度は双子の兄弟側の視点へと移っていく。そこで語られるのは、家族旅行や温かな思い出が実は虚構であったという衝撃の事実だった。

 やがて次第に明らかになっていくのは、母親の正体にまつわる重い過去。なぜ真実を隠していたのかと問い詰める記憶喪失の男と、それを抱え続けてきたもう一人。二人が向かい合い、どうして本当のことを言ってくれなかったのかと必死に問いかける場面は胸を締めつける。自分の人生を取り戻すためには真実が不可欠だと迫る弟に対し、ついに口を開く兄。そして語られる母の正体は、ただただ絶句するしかない重みを持っていた。

 観ていて強く感じたのは、知りたいと願う側と、言えないまま抱え込む側、その両方の気持ちが理解できるからこそ痛切さが増していたことです。母親が普通に人生を過ごしていく姿のやるせなさも胸に迫り、観客に深い余韻を残すのではないでしょうか。インタビューの合間に差し挟まれるイメージ映像の配置も巧みで、説明的になりすぎずに物語を補強していたのも印象的でした。そして何より、この二人の人生が少しでも穏やかで幸せなものになってほしいと願わずにはいられませんでした。

☆☆☆☆

鑑賞日:2021/07/21 NETFLIX

監督エド・パーキンズ
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