●こんなお話
かつて自分と妹をレイプした男どもを私的制裁で殺害する犯人とキャラハンが無茶苦茶なので周りからうとまれる話。
●感想
主人公は、大口径のオートマグを惜しげもなくぶっ放す、まさに映画ならではの豪快なキャラクター。彼が現場に現れるたび、なぜか人が死ぬというお約束のような展開があり、ついには警察の仲間からも「お前が動くと死人が出る」と叱られてしまう始末。本人も静かに暮らしたいと思っているのに、なぜか事件の方からやってくる。そういった“巻き込まれ型”の展開が自然と笑いを誘ってくれて、重すぎないタッチが心地よかったです。
そんな中で巻き起こるカーチェイスも、ただのスピード感ある追走劇では終わらず、老人ホームの送迎車を使っての追跡劇になるという意表を突いた展開に。状況としては緊迫しているのに、妙に間が抜けていてコミカル。そこにある種の人間味が感じられて、緊張と緩和のバランスが上手に作られていたと思います。
物語の中盤からは、レイプによって心に深い傷を負ったヒロインが登場します。彼女は犯人の男たちに対して次々と自らの手で報復していきます。法の裁きを受けさせるのではなく、自分の手で正義を貫こうとする姿は、観ている側に強い感情を残すものでした。そんな彼女と偶然出会い、次第に関わっていく主人公。必然ではなく偶然によって物語が転がっていくという展開には、やや強引な印象もありますが、映画としての勢いを損なうことはなく、むしろ展開のスピード感が物語を支えていたように思います。
ただ、そのヒロインの行動に対して、最終的に主人公が取った選択が「彼女の罪を見逃す」というものだったのには驚かされました。正義の名のもとに悪を裁く、というヒーロー像ではなく、葛藤と同情の末に“見逃す”という判断に至るあたり、人間の弱さと複雑さがにじみ出ていて、興味深かったです。単純な勧善懲悪には終わらせない、大人向けのドラマ性がうまく織り込まれていたと感じます。
クライマックスは遊園地を舞台にしたアクションシーン。ここは設定自体は胸が高鳴る展開なのですが、やや照明が暗すぎて、何が起きているのか分かりにくいカットも多く、映像的な明快さに欠けていた印象です。シチュエーションとしては派手で見応えがあるのに、演出の面でやや損をしていたようにも思えました。
とはいえ、遊園地のラストシーンで、逆光の中に主人公がゆっくりと立ち上がってくるショットは、とても力強く印象的なものでした。まさにアクション映画らしい“ヒーローの立ち姿”で、それだけでも気持ちが高ぶる熱量がありました。音楽も相まって、感情をしっかりと煽ってくる構成に仕上がっていたと思います。
全体としては、ハードなテーマを扱いながらも、どこかコミカルな味付けや人間らしさを感じさせるシーンが随所にあって、ただのバイオレンス映画には終わらない深みを持った作品でした。娯楽としてしっかり楽しみつつ、心のどこかに引っかかるものもある。そんな一本だったように感じています。
☆☆☆
鑑賞日:2020/04/26 NHK BSプレミアム
監督 | クリント・イーストウッド |
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脚本 | ジョセフ・C・スティンソン |
出演 | クリント・イーストウッド |
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ソンドラ・ロック | |
パット・ヒングル | |
ブラッドフォード・ディルマン | |
ポール・ドレーク |