映画【第十七捕虜収容所】感想(ネタバレ):収容所に生きる男たちの知恵と勇気の物語

Stalag 17
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●こんなお話

 ドイツ軍に捕まった連合国軍の捕虜収容所でスパイがいるとみんなで疑いながら前向きに生きる捕虜たちの話。

●感想

 物語はドイツ国内の連合国軍捕虜収容所から始まる。冒頭、真夜中の静まりかえった収容所で、寝静まったふりをしている捕虜たち。その中から、計画通りに脱走を試みる2人の兵士が姿を現す。柵を越えて自由を目指すはずだった彼らは、しかしその場で待ち伏せしていた看守たちに銃撃され、脱走は失敗に終わり。その始まりがまず印象的で、静と動が一気に交錯する導入に一気に引き込まれました。

 なぜ計画が漏れたのか、看守側にスパイがいるのではないかと囚人たちの間に疑念が広がっていき。それと並行して、収容所での一見のどかな日常も描かれ、全体としては淡々としたトーンの中に少しずつ不穏な空気が入り込んでくる構成になっていました。

 主人公は収容所の中でも一風変わった立ち位置で描かれます。看守たちともうまくやりとりをし、時には取引を交わしながら、物資を調達したり商売をしたりと、まるで一人だけ別の経済圏で生きているかのような存在。望遠鏡を自作してはロシア人女性捕虜のシャワーを覗く場面を仕切るなど、その振る舞いは軽妙かつ飄々としています。酒を密造して配ったり、ネズミのレースで賭け事を開いたりと、あらゆる隙間を活用して生活を楽しむ姿には、どこか牧歌的なユーモアすら感じました。

 そんな中、ナチスの鉄道を爆破して逮捕された兵士が新たに収容所に送られてきて。彼は囚人たちの間で一躍ヒーロー的存在となり、歓迎ムードに包まれますが、収容所の所長はそれをよく思わず、彼に目をつけて尋問を始めます。睡眠を取らせず、少しずつ精神をすり減らしていく尋問の描写には、戦争映画らしい緊張感が滲んでいて、主人公の飄々とした振る舞いとの対比が際立っていました。

 囚人たちは、彼を助けるために小さな騒ぎを起こし、その混乱に紛れて彼を給水塔の中に匿います。ここから一気に物語はサスペンス色を強めていき、主人公が冷静にスパイの存在を見抜き、計画を仕掛けていく展開に。スパイを囮にし、彼自身と爆破兵士が一緒に脱走を果たす流れは、テンポもよくスリリングでした。そして、彼らの脱走の成功を信じて、残された捕虜たちが何もなかったかのようにベッドに横たわるラストの描写が印象に残ります。あえてリアクションを抑えた演出が、その場に残された者たちの矜持を感じさせるようで静かな余韻がありました。

 また、物語の中にはジュネーブ条約の履行状況を監査する役人が収容所を訪れる描写もあり、戦争という極限状況の中にも「形式」としてのルールが存在していたことがわかります。日本の戦争映画に描かれる捕虜とはまた違った、当時の西洋的な価値観や文化の違いを垣間見るような場面でもありました。

 主人公が一匹狼的に行動しながらも、決して利己的に振る舞うわけではなく、必要なときには協力し、全体の空気を見て動く人物として描かれているのが興味深かったです。彼に対して他の囚人たちがどこか距離を感じていたのも、納得できる描写でありました。スパイを暴いていく流れにはミステリー的な興味もあって、観ていて自然と集中してしまいます。

 また、男だけの世界で精神的に追い込まれていく囚人たちの描写も丁寧で、女装した仲間に思わず抱きついてしまうという描写には、ユーモアを交えながらも人間の心理の深さを感じました。閉じられた空間での緊張と日常、スリルと笑いの配分が絶妙で、観ていて決して退屈にならない作品でした。

☆☆☆

鑑賞日:2022/10/23 Amazonプライム・ビデオ

監督ビリー・ワイルダー 
脚本ビリー・ワイルダー 
エドウィン・ブラム 
原作ドナルド・ビーヴァン 
エドモンド・トルチンスキ 
出演ウィリアム・ホールデン 
ドン・テイラー 
オットー・プレミンジャー 
ロバート・ストラウス 
ハーヴェイ・レムベック 
リチャード・アードマン 
ピーター・グレイヴス 
ネヴィル・ブランド 
シグ・ルーマン 
マイケル・ムーア 
ピーター・ボールドウィン 
ロビンソン・ストーン 
ロバート・ショーリー 
ウィリアム・ピアスン 
ジル・ストラットン・JR 
ジェイ・ローレンス 
アーウィン・カルサー 
エドモンド・トルチンスキ 
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