●こんなお話
映画監督のスティーブン・スピルバーグ自身の半生と作品たちのドキュメンタリー。
●感想
スティーブン・スピルバーグという名前を聞くだけで、映画の魔法がふと目の前に立ち現れるような感覚になる方も多いのではないでしょうか。本作では、そんな巨匠の歩みが、初期の自主制作フィルムから順を追って丁寧に紐解かれていきます。家庭用カメラで撮影された少年時代のフィルムが、監督自身の回想とともに挿入され、すでにその中にはのちの作品群に通じる構図やテーマが潜んでいることが見えてきます。
若き日のスピルバーグがどのようにして映画に魅せられていったのか、その軌跡が映像と証言を通して描かれるのですが、なかでもマーティン・スコセッシの『ミーン・ストリート』の現場に、スピルバーグ本人に加え、ジョージ・ルーカス、ブライアン・デ・パルマといった面々が集まって談笑している様子が記録されていたのは、映画ファンとしてはなんともたまらない場面でした。名だたる巨匠たちがまだ駆け出しの頃、カメラの後ろで肩を並べている姿に、時代の空気と熱がそのまま封じ込められているように感じられました。
また、スピルバーグの作品には一貫して、自身の両親に対する想い――それは敬愛であり、時に葛藤でもある――が物語の根底に流れているのだと語られており、それが『E.T.』や『未知との遭遇』をはじめとした数々の名作の情感に結びついていることが丁寧に示されていました。本人の家族が残した映像も多く登場し、それらが映画作品と呼応するように配置されているのは、本作ならではの貴重な体験だったかと思います。
俳優との関係性についても印象的なエピソードが語られ、たとえば『シンドラーのリスト』撮影時、リーアム・ニーソンが「まるで操り人形のようだ」と不満を口にしたことに対して、共演のベン・キングスレーが彼に静かに語ったアドバイスの一節などは、現場の緊張と信頼関係の一端を垣間見るようで興味深かったです。また、駆け出し時代に名女優に物怖じせず演出をしたエピソードや、『激突』『ジョーズ』といった初期作品の舞台裏も丁寧に語られ、一本一本にその時の時代背景や現場の空気がきちんと刻まれているのがよく伝わってきました。
一方で、個人的に少し心がざわついたのは、『フック』のように評価の分かれる作品がほんの一瞬だけ映し出されたくだりでしょうか。熱心なファンにとっては、その切り取り方に物足りなさを感じる部分もあるかもしれません。しかしながら、全体を通してスピルバーグのキャリアを濃縮して振り返る構成は、決して華美になりすぎず、尊敬と親しみを込めて編まれており、映像の一つひとつが彼の足跡を語る資料として豊かに機能していたように思いました。
映像作家としての才能はもちろんのこと、彼自身が何を見て育ち、何に悩み、何を信じてきたのか――そうした人間的な部分までも静かに浮かび上がらせてくれるような、140分の記録でした。観終わったあとには、ただ「すごい人だな」と一言では言い表せない、複雑で温かい感情が胸に残りました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2023/06/25 U-NEXT
| 監督 | スーザン・レイシー |
|---|
| 出演 | スティーヴン・スピルバーグ |
|---|---|
| クリスチャン・ベイル | |
| ビル・バトラー | |
| エリック・バナ | |
| ドリュー・バリモア | |
| ケイト・ブランシェット | |
| ダニエル・クレイグ | |
| トム・クルーズ | |
| フランシス・フォード・コッポラ | |
| レオナルド・ディカプリオ | |
| ローラ・ダーン | |
| リチャード・ドレイファス | |
| J・J・エイブラムス | |
| レイフ・ファインズ | |
| ハリソン・フォード | |
| ジェフ・ゴールドブラム | |
| トム・ハンクス | |
| ダスティン・ホフマン | |
| ジョージ・ルーカス | |
| ダニエル・デイ=ルイス | |
| リーアム・ニーソン | |
| ブライアン・デ・パルマ | |
| マーティン・スコセッシ | |
| ジョン・ウィリアムズ | |
| ロバート・ゼメキス |


