映画【狙撃】感想(ネタバレ):森雅之が魅せる!静と動が交錯する日本映画の異色アクションロマンス

sogeki
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●こんなお話

 殺し屋のスナイパーがファッションモデルと愛を育みつつ、金塊の争奪戦で空いて組織から殺し屋も放たれて戦う話。 

●感想

 冒頭、セリフひとつ発せられず、静寂のなかで淡々と狙撃の場面が描かれる。その静かな立ち上がりが不思議な緊張感を生み出していて、まるでこちらが狙われているかのような感覚になる。言葉を介さず、視線や呼吸で状況を伝えるその演出に、映画への集中力を一気に引き込まれました。

 物語は、プロの殺し屋である主人公と、一人の女性との出会いを軸に進んでいく。ふたりが距離を縮めていく様子が描かれ、デートをしたり、ベッドを共にしたりといったシーンが丁寧に挿入されていきますが、途中、突如として現れる“原住民の格好でダンスをする”場面が印象的でした。色とりどりの衣装とサイケデリックな照明の中で踊る彼らの姿は、まさに観る者の想像を軽々と超えてくる。映画の文脈とはやや切り離されたような演出ではあるものの、その唐突さが逆に強烈に記憶に残るシーンになっていたと思います。あの場面は、ある意味で映画史に刻まれるほどの“呆然”とした空白を生む魅力がありました。

 殺し屋という設定でありながら、仕事の描写よりも恋愛模様の方が長く描かれており、その分、作品全体のトーンがやや緩やかに流れていく印象を受けました。主人公が過去や心情を語る場面もあり、観客に自分の存在理由を説明するかのようなセリフ回しが続くと、どうしてもテンポがゆっくりになってしまいます。ただし、これに対峙する森雅之さん演じる敵役の存在が、物語にぐっと締まりを与えてくれました。セリフは最小限で、立ち姿や一瞬の視線の動きでキャラクターをしっかりと成立させていて、まさに“そこにいるだけで意味がある”ような存在感。金髪美女を連れて飛行機のタラップを降りてくる初登場シーンなども完璧で、佇まいから放たれる静かな威圧感に見惚れてしまいました。

 銃の構え方ひとつとっても、森雅之さんの所作には説得力があり、派手さに頼らずとも魅せる演技とはこういうものだと感じました。そして中盤以降、主人公との直接対決が描かれるクライマックスに向けて、アクションも次第に盛り上がっていきます。中でも車とヘリコプターを使ったチェイスシーンは、日本映画ではあまり見かけないスケール感で、どこか海外映画のような熱量が画面にあふれていました。爆発や銃撃といった要素に頼るだけではなく、追いかける者と追われる者の間にある“静かな緊迫”がしっかり描かれていたのが印象的でした。

 恋愛と暴力、感情と任務。二つの極端な要素を行き来しながら、最後までどこか不思議なバランス感覚で展開していく作品だったと思います。演出や展開に癖はあるものの、その振れ幅の大きさも含めて“体感する映画”という言葉が似合う一本でした。

☆☆☆

鑑賞日: 2018/05/11 DVD

監督堀川弘通 
脚本永原秀一
出演加山雄三 
浅丘ルリ子 
森雅之 
岸田森 

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