映画【ボーダーライン】感想(ネタバレ):ベニチオ・デル・トロが魅せる復讐と正義の境界線

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●こんなお話

 FBI捜査官がメキシコの麻薬組織と戦う国防総省のチームに呼ばれて作戦に参加したら、そのチームのやり方が毒には毒を的なゴリゴリなやり方で戸惑いながら戦う話。

●感想

 捜査官たちが犯罪組織のアジトに突入する場面から始まります。組織の制圧に成功するものの、壁一面に隠されていた大量の遺体に現場の全員が驚愕し、さらに仕掛けられていた爆弾が爆発して数名の捜査官が犠牲になります。物語は一気に緊張感を高かったです。

 主人公の女性捜査官は、新たな任務の説明のために呼び出された先で、見知らぬ男たちと共に作戦の説明を受けます。彼女自身も、麻薬カルテルのボスを逮捕するという極秘作戦への協力を要請され、半ば強制的に巻き込まれていきます。その中には、「どこにも所属していないように見える謎の男」アレハンドロの姿もありました。

 作戦が始まると、彼らはメキシコへと向かい、武装部隊とともにターゲットの男を拉致し、アメリカに連れ帰るという作戦を実行。しかし帰路で待ち受けていたのは、敵対組織の襲撃。子分たちが現れると、先手を打って銃撃で排除する上官たちの対応に、主人公は言葉を失います。

 次第に明らかになるのは、この作戦がいわゆる「超法規的措置」に基づいて進行しているという事実。法の枠を超えた手段で、カルテルを内部から揺るがすための策略。そのためには、ボスを捕らえ、組織を混乱させる必要があるのだと主人公は知らされます。

 私生活では、主人公が飲み屋で知り合った男性といい関係になりかけるのですが、実は彼こそカルテルの殺し屋であり、彼女は命を狙われてしまいます。間一髪のところで、アレハンドロが現れ彼女を救出します。

 やがて、国境の地下に隠されたトンネルが発見され、そこからの突入作戦が展開されます。アレハンドロは汚職警官を人質に取り、単独行動に出ます。主人公は上官から、アレハンドロがかつて家族を麻薬組織に殺され、それ以来復讐の鬼と化していること、そしてその彼をアメリカ政府がカルテル支配の「均衡装置」として利用していることを知らされます。

 アレハンドロは、組織のボスの邸宅に単身乗り込み、彼の家族を皆殺しにし、最終的にはボス本人をも射殺します。

 物語の終盤、アレハンドロは主人公の前に再び姿を現し、今回の作戦への合意を示す書類への署名を強制します。主人公はその圧力のもとでサインし、これが法や正義では測れない現実の戦いなのだという重みを痛感しながらおしまい。

 本作は、新人捜査官がベテランたちの危険な作戦に同行する中で、法に縛られない捜査の現場を目の当たりにし、その倫理的葛藤と現実の苛烈さに向き合っていく姿を描いています。特に誘拐作戦からの帰路で交通渋滞に巻き込まれるシーンなど、細部においても張り詰めた緊張感が持続しており、観る者を常に不安と緊迫の中に引き込んでいきます。

 一方で、主人公であるはずの女性捜査官がストーリー上ではあまり能動的な役割を果たしておらず、物足りなさを感じました。実際には、ベニチオ・デル・トロさん演じるアレハンドロが実質的な主役であり、彼の深い恨みや冷徹な行動に物語の重心が置かれています。彼が目的を達成するシーンには、執念ともいえる感情の強さが表れており、非常に見応えがありました。

 ただ、麻薬カルテルのボスが意外にも警備が手薄で、アレハンドロのような存在が本気を出せば簡単に制圧できてしまうのではないか、という疑問も抱きました。また、主人公の相棒やジョシュ・ブローリンさん演じる上官の描写が後半にかけてやや弱くなってしまった点も惜しく感じました。

 加えて、物語の舞台となるメキシコが、日常的に銃撃戦が起こり、サッカーをしている子どもたちの近くで銃声が響くような危険な場所として描かれていることも印象的でした。現地の現実に根差した演出なのかもしれませんが、その一方で強烈な不安や恐怖を観る者に植え付ける力を持っています。

☆☆☆☆

鑑賞日: 2016/04/15 チネチッタ川崎 2017/03/15 Blu-ray 2024/09/03 U-NEXT

監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ 
脚本テイラー・シェリダン
出演エミリー・ブラント 
ベニチオ・デル・トロ 
ジョシュ・ブローリン 
ヴィクター・ガーバー 
ジョン・バーンサル 
ダニエル・カルーヤ 
ジェフリー・ドノヴァン 

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