映画【千利休 本覚坊違文】感想(ネタバレ):千利休と弟子たちの哲学と美学|茶道を通して描く「死」の静謐な物語

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●こんなお話

 千利休が亡くなってから30年後、彼の弟子であった本覚坊が信長の弟の織田有楽斎から「利休はなぜ死罪となったのか? そして、死に際して利休は何を考えていたのか?」というのを、本覚坊と有楽斎の対話と回想の話。

●感想

 主人公が茶の湯の巨匠・千利休との別れの夢を見るところから始まります。その夢の余韻に導かれるように、主人公は利休の弟子のひとりであった織田有楽斎を訪ねます。有楽斎は、利休の死の真相について今なお心に引っかかっている様子を見せ、二人の間には静かな対話が交わされます。

 回想の中では、利休の高弟であった山上宗二の壮絶な最期が描かれます。彼は一時は秀吉の怒りを買って追放されながらも、秀吉の面前で大胆に言葉を投げかけ、切腹に至ったというエピソードが印象的に語られます。宗二の死は、単なる政治的な対立という以上に、茶道と信念に生きた人物の象徴的な終わりとして描かれています。

 主人公は、かつて利休が開いた茶会で、山上宗二とともにもう一人の人物が同席していたことを思い出そうとしますが、その人物が誰だったのかがどうしても思い出せません。再び有楽斎を訪ねることで、その答えに少しずつ近づいていきます。

 そこから話は、利休のもうひとりの高弟であった古田織部の回想へと移ります。関ヶ原の戦いでは武人として果敢に戦った織部ですが、のちに敵方との内通の疑いをかけられ、切腹に追い込まれます。彼の死は、師匠・利休への忠誠を貫いた末の選択として描かれ、主人公は「茶室にいたもうひとりの人物こそ古田織部であったのではないか」と推測します。

 物語の終盤、有楽斎は死の床に伏しながら、利休と夢の中で再び会ったことを語り始めます。利休の切腹が決まったその後、実は一度だけ秀吉と密かに会っていたことがあったというのです。そしてその会談の中で、秀吉が利休に「死ぬことはない」と告げたという逸話が語られます。このとき利休は、死を目前にして初めて「本当に茶の心が分かった」と語ったと言われ、有楽斎はその言葉に深く感銘を受けた様子を見せます。

 主人公は、静かに日常へと戻り、今日もまた変わらぬ所作で茶を点てて物語はおしまい。

 物語は当初、なぜ千利休が切腹を命じられ、死を選ぶことになったのかというミステリーの構造で進んでいきますが、次第にその焦点は「利休は死を前にして、いかなる心境に至ったのか?」という哲学的な問いへと移っていきます。

 全体を通して、台詞や映像のトーンは非常に静謐で思想的。2畳ほどの狭い茶室で、茶の湯の名人たちが語り合う場面は、言葉少なながらも非常に重みがあり、特に弟子の本覚坊と利休の語らいの場面などは、台詞の一つひとつが凛とした美しさと覚悟を湛えています。

 なお、利休の高弟である山上宗二や古田織部といった人物が重要な役割で登場するため、あらかじめ千利休とその周辺の歴史的背景についてある程度の知識がないと、物語の奥行きを感じることはやや難しいかもしれません。基本的には茶室という閉じた空間で淡々と語られる地味な構成のため、エンタメ要素は抑えられており、映画として成立するには観る側の集中力と素養が試される印象です。

 しかしながら、役者の方々が丁寧に茶道の所作を学び、それを忠実に演じていることは画面からもしっかりと伝わってきます。静かな映像と所作の美しさ、そして哲学的な台詞が織りなす空間に、心静かに身を委ねるような鑑賞体験ができる1本でした。

☆☆☆

鑑賞日:2013/07/10 Hulu 2024/09/04 U-NEXT

監督熊井啓 
脚本依田義賢 
原作井上靖 
出演奥田瑛二 
三船敏郎 
萬屋錦之介 
加藤剛 
芦田伸介 
上條恒彦 
内藤武敏 
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