映画【主戦場】感想(ネタバレ):偏っていても面白い、ノンフィクションの“演出”が問うもの

shusenjo
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●こんなお話

 従軍慰安婦問題について右と左の意見を聞きつつ、最終的にシンゾーアベ率いる日本会議の陰謀がうごめいているニッポンの話。

●感想

 冒頭から畳みかけるような早口のナレーションと編集で、一気に観客を引き込むスピード感にあふれた作品でした。テーマは日韓間で長年解決に至らない慰安婦問題。作品では、いわゆる右派・左派双方の意見を取り上げながら、交互にその主張を見せていく構成になっています。

 最初は一見、公平に意見を並べて紹介しているように思えるのですが、見進めるうちに明確に作り手のスタンスが見えてきます。特に右派側の主張に対しては、その論理の破綻や歴史認識のズレを浮き彫りにするような編集がなされていて、監督の主張がしっかりと込められています。そうした明確な視点は、ドキュメンタリーにおける「客観」の概念を問い直すようなもので、プロパガンダ的であることを承知の上で、エンターテインメント性と問題提起を両立させた作りに感じられました。

 顔のどアップ、アニメーションの挿入、アイキャッチのような音楽やタイポグラフィ、背景のデザインまで、映像表現がとにかく凝っていて、単調になりがちなテーマにも関わらず、最後まで飽きずに観ることができました。120分という長さもテンポの良さと編集の巧みさで全く苦になりませんでした。

 驚かされたのは、ここまで右派の方々がカメラの前で堂々と話していること。よくぞここまで撮らせたなと、その交渉力と取材力には素直に感心してしまいました。特に、自分の中で右派の意見というものがなんとなくしか知らなかったので、初めて彼らの主張をじっくり聞けたという意味でも、非常に学びのある作品でした。ただその上で、その主張がいかに説得力を欠いているかが明確になる構成にもなっていて、思わず笑ってしまうような場面も少なくありませんでした。

 一方で、人権派の弁護士さんや法学者さんなど、左派寄りの人物たちの中にも「それちょっとどうなんだろう」と思ってしまうような微妙な発言やスタンスがあって、そちらにも皮肉が効いていてバランスを取ろうとしている工夫も感じられました。

 物語後半、さながら“ラスボス”のように登場してくるのが日本会議関係者で、彼らが次々と繋がっている構造を明らかにしていく流れは、まるで陰謀論めいた展開なのに妙に説得力があって笑えてしまうほど。中でも知識のなさを自ら露呈してしまうような発言の連発は、悪意すら感じさせる編集ながら、それでも面白く観せる力量がありました。

 こんなテーマで、しかもドキュメンタリーで、これだけ話題を呼び、実際にヒットしてしまったというのもすごいことです。右派の出演者たちが名誉毀損などで訴えを起こすといったニュースもありますが、そういう方々こそ、自らの主張を詰め込んだドキュメンタリー映画を制作し、そしてこの映画以上に面白くて説得力のあるものを作ればいいのに、と思ってしまいました。

 政治や歴史という難しいテーマでありながら、娯楽としても成立してしまう強度のある映画でした。問題の本質を考えるきっかけにもなるし、映像表現としての面白さも備えた一本だったと思います。

☆☆☆☆

鑑賞日:2019/07/08 シアター・イメージフォーラム

監督ミキ・デザキ 
脚本ミキ・デザキ 

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