●こんなお話
少年グループとおばさんグループの殺し合いの話。
●感想
調布の街を舞台に、若者たちの熱気と、おばさんたちの静かな怒りが交差していく。夜な夜な集まってはコスプレをし、歌い、騒ぐ若者グループ。そのひとりが、ふとした偶然から道端でぶつかった中年女性に言い寄ろうとしたところ、騒がれてしまい、衝動的にナイフで殺害してしまう。
この事件をきっかけに、物語は大きく動き始める。遺体を見つけた中年女性グループのひとりは、お通夜で「私たちがおばさんだからやられた」と受け取り、静かに復讐を決意する。現場に残されたバッジを手がかりに、ある駄菓子屋で子ども向けゲームの優勝者がもらえるものだと気づき、そこから犯人が専門学生であると突き止める。
その学生を、女性グループのひとりがスクーターに乗って追い、ナイフで刺し殺す。街のなかで静かに確実に火がついていく報復の連鎖。少年グループは、その現場で謎の女から目撃証言を得て、おばさんグループについて書かれた雑誌から情報を得ていく。そして、彼らは拳銃を手に入れ、おばさんグループのひとりを射殺する。
この応酬に拍車がかかるように、女性グループは元自衛官からロケットランチャーを譲り受けるという大胆な行動に出る。海岸で盛り上がる少年たちに向けて発射されるミサイル。爆発する海辺。さらにナイフによる直接的な襲撃で、少年グループはついにひとりを残すのみとなる。
最後に残った少年は、自作の爆弾を作り上げ、調布の空にそれを打ち上げ、大爆発を起こして物語は終わりを迎える。
一見すると、若者と中年女性による報復の連鎖を描いた単純なバイオレンスものかと思っていましたが、鑑賞してみるとその枠に収まらない不思議な温度のある作品で、文学的な表現や抽象的な展開に包まれていた印象を受けました。特に市川実和子さんが演じる謎の女性の存在感が独特で、彼女が何を考えてどこへ向かっているのかがつかめず、それが物語に大きな影を落としていたように思います。
また、原田芳雄さんが登場し、少年たちに拳銃を渡すという立ち位置を演じていますが、彼の行動や動機も明確には語られず、それが一層物語の不確かさや夢のような質感を強めていました。全体的に、説明があるようでない、余白が多い演出が続いていて、受け手によって解釈が大きく分かれる映画だったように感じます。
一方で、物語の進行における情報のやりとりが唐突に思える場面も多く、たとえば相手を探しに行くというプロセスが省略されていて、気づいたらもう殺しているという展開が繰り返されていました。そこに緊張感や駆け引きがあまり描かれなかったのが個人的には物足りなさを感じる部分でした。
ただ、調布というローカルな街を舞台にしながら、ロケットランチャーや自作爆弾などを持ち出してくるスケール感の飛躍には、ある種の面白さがあって、どこかユーモラスにも見える瞬間があったのも事実です。破天荒なようで、妙に静けさも併せ持った奇妙な味わいのある作品でした。
☆☆☆
鑑賞日:2010/02/04 DVD 2023/04/23 Amazonプライム・ビデオ
監督 | 篠原哲雄 |
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脚本 | 大森寿美男 |
原作 | 村上龍 |
出演 | 松田龍平 |
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岸本加世子 | |
樋口可南子 | |
池内博之 | |
安藤政信 | |
鈴木砂羽 | |
細川ふみえ | |
森尾由美 | |
斉藤陽一郎 | |
村田充 | |
近藤公園 | |
内田春菊 | |
原田芳雄 | |
市川実和子 | |
古田新太 | |
寺田農 | |
ミッキー・カーチス |