●こんなお話
韓国大統領の部下たちの権力争いとかその結果の銃撃事件とその後の話。
●感想
1979年10月26日。韓国大統領・朴正煕は18年にわたる統治の中で、国家の近代化を押し進めていた。軍事クーデターで権力を握って以来、彼の政治は強権と恐怖によって支えられてきた。経済成長という果実の裏で、秘密警察の暴力や政治弾圧が日常化し、社会には重たい空気が漂っている。かつて国を導いたリーダーは、いつしか国民からの信頼を失いつつあった。
大統領府では側近たちを招いた晩餐会が開かれていた。豪華な料理が並び、音楽と笑い声が響く。招かれたのは、韓国中央情報部部長の金載圭、軍幹部、そして接待のための女性たち。表向きは穏やかな夜だったが、金の胸の内にはある考えがある様子。彼は朴の独裁と腐敗に深い憤りを抱えながらも、長年の忠誠の末に生まれた矛盾と疲労がその怒りを複雑にしている。金は部下とともに、大統領暗殺の計画を密かに進めていた。
宴が進むにつれ、金は酒を口にしながらも表情を変えない。大統領が若い女性と談笑し、笑い声が響く中、金の副官チャンが静かに位置を整える。部屋の外では銃を持つ部下たちが待機していた。金は立ち上がり、手にした銃口を朴に向ける。唐突に響く銃声。朴正煕は即座に倒れ、会場は混乱に包まれた。部下たちはそれぞれの持ち場で制圧していく。
金は部下に命じて外の警備を制圧しようとする。事件を北の工作員による襲撃に見せかけるための指示が飛び交うが、状況は思うように進まない。軍の一部は沈黙を守り、内閣の混乱が広がっていく。KCIA、警察、軍、それぞれの思惑が交錯し、国家の中枢は一夜にして混乱の渦に巻き込まれる。金は自らの行動を「国家の救済」と信じようとするが、やがてその理屈が空虚であることに気づいていく。
情報部の本部の南山には戻らず陸軍本部へ行って金。総理の崔圭夏は事実を公表し、金を逮捕しようとして、金は連行される。彼の部下たちは、それぞれに家族へ電話をかけ、静かに最期を覚悟してその後の顛末がテロップが流れておしまい。
本作は、1979年に実際に起きた朴正煕大統領暗殺事件を基に描かれている。事件の経緯を丹念に追いながらも、政治ドラマのような派手さではなく、むしろ息苦しい密室劇として進みます。晩餐会の部屋の中、銃声が響くまでの張りつめた空気、そして撃った後の静寂。その緊張感が、当時の韓国社会の閉塞を象徴しているように感じられました。
俳優たちの演技も素晴らしく、特に金載圭役の俳優の表情には深い葛藤がにじんでいたと思います。朴正煕の静かな笑みや、彼の権力を支える周囲の空気も見事に再現されていると思いました。
ただ、この事件や当時の政治背景に関心がないと、人物関係や立場の違いを把握するのが少し難しく感じる部分もあると思われます。KCIAや軍の権力構造などをある程度知っていると、より深く物語を味わえる作品だと思いました。
それでも、ひとつの時代が終わる夜を、誰の正義も救われないまま淡々と描き切った本作には、静かな迫力がある1作だと思いました。
☆☆☆
鑑賞日:2025/10/08 U-NEXT
監督 | イム・サンス |
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脚本 | イム・サンス |
出演 | ハン・ソッキュ |
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ペク・ユンシク | |
ソン・ジェホ | |
キム・ウンス | |
チョン・ウォンジュン | |
クオン・ビョンギル | |
チョ・サンゴン | |
チョ・ウンジ | |
キム・ユナ | |
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キム・サンホ | |
キム・サンウク |