映画【寄性獣医・鈴音 GENESIS】感想(ネタバレ):幻想と記憶が交差するSFドラマ

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●こんなお話

 寄生したら宿主を発情させる寄生虫と戦う女医さんの話。

●感想

 獣医であり寄生虫学の専門知識を持つ鈴音は、感染者から寄生虫を摘出・駆除する“寄性獣医”として暗躍していた。彼女の目的はただ治療を施すことではなく、寄生の根源を探り、同時に父の失踪の謎を追うことにあった。鈴音は捕食行動を行う新種の蛙と協力し、寄生虫を捕殺しながら被害の拡大を防ごうとする。やがて彼女は、寄生虫の背後に巨大財閥・鬼頭グループの研究計画が関係していることを突き止める。その研究には、かつて鈴音の父・有薗博士が関与していたことが判明するのだった。

 鈴音は鬼頭財閥の施設に潜入し、御曹司の鬼頭高哉、そして寄生研究の関係者・相原尚美らと対峙する。財閥は寄生虫を薬物として商品化し、人間の感情や行動を支配することで利益を得ようとしていた。鈴音はその計画を止めようとするが、自身の体にも寄生虫が潜んでいることを知り、戦いの最中に深い葛藤を抱える。最終的に鈴音は撤退を余儀なくされ、戦いは次章へと続いていく。

 物語は、鈴音が少女時代の記憶をたどる場面から静かに始まる。70分という短い上映時間ながら、作品全体にはどこか沈静した空気が漂い、過去と現在を交錯させる回想の構成が印象的です。淡くくぐもった映像のトーンは、どこかノスタルジックで、鈴音の孤独や罪悪感を包み込むように描かれていました。

 物語の表層には、悪徳企業による陰謀や人体実験という明確なサスペンス要素があると思いますが、実際には主人公の内面に焦点を当てた心理ドラマとしての側面が強い印象でした。鈴音は父の失踪、寄生虫との共存、そして人間の本能に向き合いながら、自身の存在理由を探していきます。中盤では鬼頭高哉と出会い、敵対関係から協力関係へと発展していって、その描写は数シーンにとどまり、関係性の深化がやや急に感じられる部分も。

 映像面では、寄生虫に侵された人間の姿が不気味でありながらもどこか幻想的に描かれていて、グロテスクさの中に官能的な美しさを漂わせているのが特徴的でした。寄生と支配、快楽と恐怖という相反する感情を同時に映し出すことで、この作品ならではの世界観を確立していると思いました。特に鈴音の孤独な戦いを照らす淡い光や、寄生虫が蠢く幻想的な描写は、現実と幻想の狭間を行き来するような不思議な魅力を放っていると思いました。

 クライマックスに向かうにつれて、父との記憶や罪悪感が鈴音の中で再び浮上し、物語のテンポはあえて緩やかに。この演出が彼女の心情を丁寧に描き出していて、戦いの場面よりも内面の葛藤を通してキャラクターを深めているのが印象的でした。全体として、アクションよりも心理描写に重きを置いた静かな緊張感のある作品に仕上がっていると思いました。

 本作は二部構成の前編にあたるため、大きな決着は避けられているものの、後編への布石が随所に散りばめられていて。寄生虫の起源、父の真意、そして鈴音自身に潜む秘密がどのように明かされていくのか、次作への期待を抱かせる構成でした。映像美と幻想的な雰囲気、そして人間の本能に迫るテーマ性が組み合わさった独特の作品世界は、観る者の記憶に強く残るのかもしれない1作でした。

☆☆

鑑賞日:2012/02/26 DVD 2025/10/13 U-NEXT

監督金田龍 
脚本藤岡美暢 
小林雄次 
原作春輝
出演吉井怜 
神楽坂恵 
高野八誠 
木下ほうか 
倉貫匡弘 
深水元基 
久保ユリカ 
前田優希 
星野あかり 
螢雪次朗 
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