●こんなお話
関ヶ原の戦いの流れを知っている人向けの関ヶ原の戦いの話。
●感想
物語は豊臣秀吉の晩年から始まり、次第に徳川家康と石田三成の対立が深まり、関ヶ原の戦いへと向かっていくという流れになっている。冒頭から語りや説明はほとんど挟まれず、人物の関係性や背景も整理されないまま、すでに動き出している物語の只中に観客は放り込まれる。原田眞人監督ならではの編集の速さと、登場人物たちの畳みかけるような台詞の応酬によって、場面は次から次へと目まぐるしく展開していく。
石田三成が家康のもとに身を寄せる場面、直江兼続と密かに会い、東西で家康を挟み撃ちにしようとする策略を語る場面など、関ヶ原前夜の政治の駆け引きが描かれていく。時代劇でよく知られたエピソードが次々に登場するが、それらも淡々と、テンポよく進んでいく。島左近や大谷吉継ら西軍の将たちが姿を見せる一方で、家康側の諸将については描写が抑えめになっていて、福島正則らとの駆け引きや、鳥居元忠の籠城戦などは触れられずに進む。全体としては石田三成に寄り添った構成となっている。
また、三成と忍びの女性との関係も描かれ、互いに惹かれ合うような描写が挟まれる。彼女は物語を通して三成のそばに現れたり、戦場を駆け抜けたりする存在として配置されている。関ヶ原の戦いの最中にも登場し、兵たちの間を走り抜ける場面が続く。忍者たちの動向や、柳生一族との別れの場面なども加わり、合戦の緊迫感とはまた違った視点が物語に挿入されていた。
関ヶ原の戦いそのものは、後半40分ほどにわたって描かれる。戦場の様子は比較的近景の構図が中心で、合戦の全体像よりも地上の混乱に焦点が当てられている。槍を手にした兵たちのぶつかり合いが断続的に描かれ、それぞれの武将たちがどこで何をしているかといった戦況の変化は、映像からだけではなかなか把握しづらい構成になっている。島津の退却なども描かれず、代わりに朝鮮から来たという大砲部隊の登場がクローズアップされるなど、独自の視点も混ぜ込まれていた。
作品全体を通して、戦国史にある程度の知識があることを前提に進む構成になっていて、登場人物の関係性や戦略の変化もセリフの断片から読み取っていく必要がある。視覚情報と早口の台詞を頼りに状況を整理しながら観る体験は、観客側にある程度の集中と理解力を求めるものとなっていた。
映像の撮り方については、群像劇としての勢いがあり、登場人物たちがそれぞれの思惑を持って動いていく姿を流れの中に描き出している印象でした。原田監督ならではのカット割りと、画面の情報量の多さも健在で、画面から目を離す暇がないほどでした。
ただ、歴史劇としての面白さや新たな視点といった部分は、もう少し踏み込んで描いてほしかったように感じます。すでに多くの映像作品で語られてきた関ヶ原という題材だからこそ、どの角度から切り取るかが鍵になると思いますが、今回は人物たちの内面の掘り下げよりも出来事の流れを追う構成が中心になっていた印象を受けました。
とはいえ、テンポの速さや演出の鋭さには独自の魅力があり、既存の時代劇に飽きた方には新鮮な手触りも感じられる作品だったかもしれません。歴史に詳しい方ほど、細かなディテールや史実との距離感を楽しめる構成だったように思います。
☆☆
鑑賞日: 2017/09/14 TOHOシネマズ六本木 2018/07/18 Blu-ray
監督 | 原田眞人 |
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脚本 | 原田眞人 |
原作 | 司馬遼太郎 |
出演 | 岡田准一 |
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有村架純 | |
平岳大 | |
東出昌大 | |
役所広司 |
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