映画【セント・オブ・ウーマン/夢の香り】感想(ネタバレ):アル・パチーノと歩く人生の旅

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●こんなお話

 盲目の退役軍人と、その道案内役の青年が共に旅をする話。

●感想

 学生は努力の末に名門校へと進学したものの、そこで待っていたのは、裕福な家庭に育った同級生たちが引き起こしたトラブルと、その責任を押しつけられるような理不尽な現実。校長の高級車に悪戯をした数人を目撃した主人公に対し、「名前を言えばハーバード推薦、黙っていれば退学」という重すぎる選択を突きつけられる。

 そんな状況の中で、彼のアルバイトが始まる。面接に訪れた先にいたのは、頑固で人を寄せつけない雰囲気を纏った退役軍人の男。盲目でありながら、すべてを見通すような鋭い言葉を投げかけてくる。そして面接から間もなく、男は突如として旅へ出ると宣言し、主人公も巻き込まれるかたちでニューヨークへと飛ぶ。飛行機の予約も高級ホテルの手配も済んでいて、どうやら彼にはこの旅に明確な計画があるらしい。

 道中、退役軍人は語る。酒、女性、軍隊、そして生きることについて。彼の語りはただの雑談ではなく、どれも人生の裏側に触れるような内容で、聞いているうちに主人公は少しずつ彼の内面に触れていく。途中、兄の家に立ち寄るエピソードでは、言い争いの末に激情を見せたかと思えば、ふと疲れた顔を見せる。その落差に心を掴まれる。

 なかでも印象的なのは、食事中に偶然居合わせた女性とタンゴを踊るシーン。「タンゴは間違えてもいい」と語りかける退役軍人の姿は、単なるかっこよさを超えて、どこか人生への慈しみすら感じられる瞬間でした。
ほかにもスポーツカーの試乗シーンでは、盲目であることを感じさせない大胆な暴走ぶりに驚かされるし、信号を無視してしまうほど疲れた心の表れも見逃せないです。

 旅の終盤、退役軍人が長く温めていた「計画」が明かされる。主人公は涙を流しながら彼を引き止める。説得のために、あのタンゴの言葉を借りる場面には胸を締め付けられる想いがあったり。
 そして物語は、主人公が学内で開かれる公開の裁きに臨む場面へと進む。全校生徒の前で、自分に突きつけられた選択とどう向き合うのか。そこに現れる退役軍人。壇上で彼が語る演説には、重みと情熱、そして清々しさが込められていて、まさにクライマックスにふさわしかったです。

 その演説を聞いた生徒たちが沸き起こす歓声。そしてラスト、退役軍人がすれ違った女性に香水の銘柄を言い当て、「これであなたを探せる」と囁くラストカット。言葉では形容しきれないほどの美しさがそこにはありました。

 約150分という長さを感じさせない密度と、登場人物たちの魅力に引き込まれる時間。何よりも、利己的な選択をせず、他者を信じることの大切さが、ストレートに伝わってくる映画だったと思います。決して派手な物語ではないけれど、観終わった後に心に深く残る作品でした。

☆☆☆☆☆

鑑賞日:2013/09/12 DVD

監督マーティン・ブレスト 
脚本ボー・ゴールドマン 
出演アル・パチーノ 
クリス・オドネル 
ジェームズ・レブホーン 
ガブリエル・アンウォー 
フィリップ・シーモア・ホフマン 
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