●こんなお話
1931年のアメリカのギャングで揉め事になって「子連れ狼」みたいに子どもと冥府魔道に行く話。
●感想
物語は、ひとりの少年が父親との記憶を振り返るモノローグから始まる。静かな回想の中で語られるのは、ある年の出来事。父親の仕事は、地元のボスのもとで何やら裏の仕事を請け負っているということが、子どもの目からもそれとなく伝わってくる。何かただならぬ世界に父が関わっていることだけは、少年にもわかる。
ある日、町で開かれた葬儀の席に親子が出席する。亡くなったのは、組織の中で不満を抱えていた人物の一人らしく、儀礼の場で不穏な空気をまとう一幕も見られる。そして夜。父親とボスの息子が仕事に出かけるのを見て、興味から車の後部に隠れてついて行った少年が目撃するのは、衝突と裏切り、そして銃声だった。人が撃たれる音を間近で聞いた少年の表情が忘れられない。しかも、その場にいた大人たちに、自分が目撃していたことも知られてしまう。
その後、家にやってきたボス本人が少年に「このことは他言するな」と忠告を与える。その言葉がどこまで本気だったのかは分からないが、大人たちの世界において、沈黙は生き延びる手段であることを少年は理解していく。その後も、父親が借金の取り立てに向かった先で殺されかけ、命からがら返り討ちにして帰ってきたことで、事態はより深く混迷を極めていく。どうやら、その取り立て先に行けと命じたのは、ボスの息子であり、さらには「帳消しにする代わりに殺してしまえ」との命令まで出ていたということが明らかになる。
事態は一線を越える。父親の家に押しかけてきたボスの息子は、妻と次男を撃ち殺すという行動に出てしまう。そこから父と息子の逃避行が始まり、ボスから「金を持ってどこかへ去れ」と言われてもそれを拒み、より大きな組織が待つシカゴを目指す。しかし、そこでも冷たくあしらわれ、むしろ刺客を送り込まれる結果となる。
組織への反逆として銀行を襲撃し、資金を奪いながら逃げる道中、ダイナーに立ち寄ったタイミングで刺客に襲われたり、会計係から帳簿を奪おうとした現場で銃撃戦となり、父親が負傷するなど、緊張感のあるシーンが続いていく。偶然たどり着いた老夫婦の家で療養したのち、父親は一人でボスのもとへ向かい、息子が裏金をちょろまかしていたことを伝える。しかし、ボスはそれを受け入れることができない。親というのは、どこまでも子に甘い存在なのかもしれない。
父親はついにボスの命を奪い、組織の中枢に風穴を開ける。そして息子の居場所を聞き出し、復讐の手を伸ばす。だが、避難先となった親戚の家にも刺客の手が迫っていた。銃撃を受ける父親。そして息子が手にした銃口を向けると、最後の一発を撃ったのは父の手だった。
画面全体に広がるのは、くすんだ灰色と茶色。雨上がりの舗道や、古びた木製の家具、重たく動く車のドアなど、どれも静かに物語の陰影を描き出している。内容自体はマフィアものとしてオーソドックスな流れながら、重厚な映像と静かな怒りを秘めた人物たちの佇まいが印象的でした。ポール・ニューマン演じるボスは、威厳と哀愁を漂わせ、まさに存在感そのものという感じでした。
親子の対比構造も興味深く、主人公とその息子、ボスとその息子というふたつの家族像が交錯していくのがこの作品の軸となっていたと思います。親がどんなに立派であっても、子に対しては常に盲目的になるのかもしれないというテーマが、最後に残る余韻となって響きました。
ただし、全体として物語は淡々としていて、展開が速すぎることもなく、120分という上映時間の中で大きく盛り上がるような山場は控えめだったようにも思います。また、トム・ハンクスがどうしても殺し屋というよりは善良な父親に見えてしまい、その役柄がうまくフィットしていないようにも感じました。対するジュード・ロウ演じる刺客も、期待感を高める登場だっただけに、早々に対決が終わってしまう点がやや惜しかったです。
とはいえ、親子の物語としての深みや、マフィア社会の構造を描く重厚な空気感は見どころのひとつです。静かな怒りと、父から子への思いが詰まった一本でした。
☆☆☆
鑑賞日:2011/01/07 Blu-ray 2021/07/26 DVD 2024/12/08 Amazonプライム・ビデオ
監督 | サム・メンデス |
---|---|
脚本 | デイヴイッド・セルフ |
原作 | マックス・アラン・コリンズ |
リチャード・ピアーズ・レイナー |
出演 | トム・ハンクス |
---|---|
タイラー・ホークリン | |
ポール・ニューマン | |
ジュード・ロウ | |
ダニエル・クレイグ | |
スタンリー・トゥッチ |