映画【単騎、千里を走る。】感想(ネタバレ):高倉健主演、言葉を超えた心のつながりを映す異国の旅路

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●こんなお話

 息子の願いを叶えるために中国に行って息子と再会する役者さんに会いに行くけど、彼が刑務所にいることを知って何とか会おうとする話。

●感想

 寡黙で真摯な人間像を体現する高倉健さんが主演を務める本作は、まさに「THE 高倉健」と呼ぶにふさわしい役柄を丁寧に演じています。物語は、主人公と息子との間に生じた距離感から始まります。不仲の状態が長く続いていたものの、息子が重い病気にかかったことを契機に、少しずつ関係が変わり始めます。息子がかねてより興味を抱いていた中国の京劇に思いを馳せていたことを知り、父親は息子が会いたがっていた役者に会いに中国へと旅立つ決意をします。異国の地で言葉や文化の壁に苦戦しながらも、懸命に道を切り拓こうとする姿が印象的に描かれていました。

 中国で出会う役者たちは、チャン・イーモウ監督作品に見られるような素人感あふれる人々で、彼らと高倉さんとの間での意思疎通は決してスムーズとはいえません。それでも高倉健さん演じる主人公は、ガイドから「無理です」と何度も断られながらも、「そこを何とか」と粘り強く交渉を続ける姿が強く心に残りました。現地で刑務所へ赴き、目的の役者にようやく会うことができたものの、その役者もまた息子に会いたいという感情に押し潰されそうになり、芝居ができない状況に陥ります。こうした人間味あふれる場面が続く中で、主人公はその役者の息子と田舎へ向かい、周囲から「無理だ」と言われる中でもひたすら歩みを止めない様子が静かに胸を打ちます。

 息子と過ごす時間のなかで、砂漠で遭難する場面もあります。そこでは少年が用を足す様子をデジカメで撮影する高倉健さんの姿があったりと、ユーモラスでありながら温かみを感じさせる瞬間もあり、単なる旅路の記録ではない人間ドラマが織り込まれていることがわかります。

 また、息子の写真を持って刑務所へ戻り、囚人たちの前でデジカメの映像を見せる場面も心に残りました。厳つい男たちが涙を流す様子は胸を打ち、言葉以上に通じ合う感動がそこにはありました。こうした中国の役者や囚人たちの朴訥で純粋な人間性の描写が、本作の大きな魅力であると感じました。

 ただし、日本パートと中国パートの描写の間には微妙なズレがあり、映画全体としての調和はやや欠けている印象も受けました。主人公と息子の関係の描き方もどこか浅く感じてしまい、深い感動には届かなかったところが正直なところです。とはいえ、主人公の真摯な姿勢や異国の人々との交流が静かに胸に残り、じんわりと味わえる良作であることは間違いありません。

☆☆☆

鑑賞日: 2016/10/30 Hulu

監督チャン・イーモウ 
日本編監督降旗康男 
脚本ヅォウ・ジンジー 
出演高倉健 
リー・ジャーミン 
チアン・ウェン 
チュー・リン 
ヤン・ジェンボー 
寺島しのぶ 
出演(声)中井貴一 

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