映画【乱】感想(ネタバレ):色と動きが躍る戦国の絵巻

Ran
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●こんなお話

 戦国時代の架空の大名が隠居によって起こる肉親による骨肉の争いの話。

●感想

 物語は、とある国の主君が、三人の息子たちとの関係を通じて滅びへと向かっていくさまを描いている。主君は、三男の振る舞いを問題視し、一族から追放するという決断を下す。跡継ぎには長男を据えるが、彼の性格は粗暴で、自分を含めた家族すら顧みない態度を取り続けていく。やがて主君は、その長男に疎まれるようになり、次男のもとへと身を寄せるが、そこでも居場所を見つけられず、心の支えを次第に失っていく。

 一方で、次男は長男の暴政に反発しつつも、行動の芯が定まらず、揺れ動き続ける。そして戦乱の混乱の中で、彼は長男を討ち、自らが跡を継ぐ立場となる。その流れのなかで、長男の妻の言葉に影響され、一族の未来に対して不安と恐れを抱えながらも、結果として破滅への道を進んでいく。最後には三男との対話が描かれ、物語は静かに終局へと向かっていく。

 まず、映像面での力強さは素晴らしかったです。とくに印象に残ったのは、合戦シーンにおける色彩の明瞭さで、赤と青というそれぞれの軍勢のイメージカラーが画面上に鮮烈に広がっていました。兵士たちが遠くの丘の上にまでわらわらと動き回る構図は、奥行きを感じさせてくれて、実際の戦の空気感が肌で伝わってくるようなリアリティがありました。手前にいる人物と、画面の奥で展開される大軍勢が同時に映り込むことで、視覚的な迫力が増し、思わず見入ってしまう場面が多かったです。

 合戦のスケールやエキストラの動き、衣装の配置に至るまで、スタッフの手仕事の細やかさを感じさせるシーンが多く、視覚的には充実した作品だったと感じました。戦国時代の混沌を、色と動きで伝える力にあふれた映像でした。

 ただ、その一方で、物語の芯にあたる人物描写の部分については、やや浅く感じる部分が多かったです。とくに主人公である主君が三男を追放するという重大な決断を下すにあたっての心の動きがほとんど描かれておらず、その判断の背景が見えづらかったことが気になりました。物語が始まる前にこの家族がどのような関係性でいたのかがほとんど伝わってこなかったため、いきなりの対立構図に戸惑いが生まれてしまいました。

 また、次男の行動についても、長男を討ち、自らが跡を継ぎ、さらには長男の妻に翻弄されていく過程が、やや唐突に映りました。なぜそこまで深く判断を誤るのか、という人物の内面に関する描写が薄かったため、彼の行動が単なる物語上の都合として映ってしまうこともあったと思います。もっと人間の葛藤や選択の重みが丁寧に描かれていれば、感情の乗り方も大きく変わっていたように感じました。

 主人公が一族を離れて家来とともに荒野を彷徨うパートについても、映像的には孤独や喪失感を表現していることは伝わってくるのですが、物語としての進展がほとんどなく、時間が停滞しているような印象が残りました。風景描写や衣装の雰囲気などに見入る部分はあったものの、観ていて気持ちがふわふわと浮ついた状態になってしまったような感覚があります。

 物語の終盤では、三男との再会と対話が描かれますが、そこも感情が大きく動く瞬間のはずなのに、どこか静かに見守るような距離感で観ていました。劇的な再会や感動的な和解というよりも、すでに何かを諦めてしまった者同士が言葉を交わすような、抑制された印象がありました。感情を揺さぶるような高揚感はあまり感じず、心が遠い位置にいるまま見届けた、というのが正直な印象です。

 2時間40分という長尺の中で、合戦シーンを中心に映像としての魅力はしっかりと詰め込まれており、現場の熱量が伝わる瞬間も多かったと思います。ただそのぶん、人物たちの心の動きを追う部分が薄れてしまい、物語全体に対する没入感がやや弱まってしまった印象は拭えませんでした。とはいえ、巨大なスケールで繰り広げられる戦国絵巻として、その存在感は十分に感じられる作品だったと思います。

☆☆

鑑賞日: 2016/11/09 NETFLIX

監督黒澤明 
脚本黒澤明 
小国英雄 
井手雅人 
出演仲代達矢 
寺尾聰 
根津甚八 
隆大介 
油井昌由樹 
加藤和夫 
ピーター 
植木等 
田崎潤 
原田美枝子 
宮崎美子 
井川比佐志 
児玉謙次 
伊藤敏八 
加藤武 

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