●こんなお話
父への復讐と弟の奪還のため、動物的な能力を持つ冷酷なハンターが生まれるまでのヴィラン誕生の話。
●感想
アフリカの乾いた大地を踏みしめながら、少年セルゲイ・クラヴィノフは父の狩猟計画に同行していた。ロシアの富豪である父ニコライは、息子たちに「生と死」を学ばせようと、雄ライオンを獲物に選ぶ。だが狩りの最中、セルゲイは弟ドミトリを守るために傷を負い、その場で命を落としかける。
彼を救ったのは、森の奥に住む少女カリプソだった。彼女が差し出した不思議な薬草の調合液によってセルゲイは命を取り留めるが、その日から彼の身体は人間の枠を超えた“動物の力”を宿すようになる。父はそれを忌まわしいものとして笑い、セルゲイは家を飛び出した。
16年後。セルゲイは「クレイヴン」と名乗り、冷酷な“ハンター”として犯罪者たちを狩っていた。彼にとって狩りとは、復讐であり、生の証でもあった。刑務所で武器密売人を葬った彼は、弟ドミトリの誕生日を祝うために故郷に戻る。だがその再会の翌朝、ドミトリは軍事企業の幹部アレクセイ・サイツェヴィッチによって誘拐される。
父ニコライは息子の救出に一切動かず、金で解決できない問題に興味を示さない。セルゲイは弟を奪還するため、再びカリプソを探し出し、彼女の協力を得てアレクセイの組織を追う。
アレクセイは人体実験によって怪物化し、“ライノ”と呼ばれる存在になっていた。皮膚は鋼鉄のように硬く、力は猛獣をも凌ぐ。さらに彼は暗殺者フォーリナーを雇い、セルゲイの命を狙わせる。フォーリナーは毒を用い、幻覚の中でセルゲイを追い詰めるが、カリプソの放った矢がそれを断ち切る。命を拾ったセルゲイは、獲物を仕留めるように敵の痕跡を辿り、復讐の狩りを続ける。
最終局面、セルゲイは“ライノ”との死闘に臨む。血と砂が混ざり合う荒野で、二人の肉体がぶつかり合う。毒の力を逆手に取り、セルゲイはライノの変異薬の注射部位を撃ち抜く。ライノは、突進してきた牛の群れの中に飲み込まれ、命を落とす。
すべてが終わった後、セルゲイは父ニコライが組織を操っていたことを知る。父の傲慢と冷酷が、家族を狂わせてきたことを悟り、セルゲイは復讐を決意する。銃から弾を抜き取り、父の前にクマを放つ。獣の咆哮とともに、長年の因縁が静かに終わる。セルゲイはやがて獲物の毛皮を纏い、夜の荒野に歩み出す。「クレイヴン・ザ・ハンター」として、真の狩人の旅が始まる。
アクション映画としての迫力は確かにあり、特に弟が誘拐されてからの展開は緊迫感に満ちていました。主人公が市街地を駆け抜け、傭兵たちを次々と倒していく場面は映像的にもスピード感があり、音の使い方にもセンスを感じました。セルゲイの野生的な身体能力を生かした肉弾戦は見ごたえがあり、画面全体からエネルギーが溢れていました。
一方で、物語の根幹となる父との確執の描き方が薄く、セルゲイが何を背負って狩りを続けるのかという動機が掘り下げられていない印象も受けました。フォーリナーという暗殺者の存在も、登場のわりに展開があっさりしていて、もう少し緊張感を引っ張ってほしかったです。
クライマックスの“ライノ”との対決は、映像的には派手ですが、CGの重量感が強すぎて、アクションよりも視覚効果の洪水として流れていくように感じました。セルゲイと父との確執を象徴する“狩り”のテーマが薄れてしまい、単なるパワー勝負に終わってしまったのは惜しかったです。
それでも、セルゲイが最後に父を超え、復讐と自己の本能を受け入れる場面には一種の悲しみと覚悟が漂っており、荒々しい物語の中に人間的な弱さと孤独が滲んでいました。野獣のような強さの裏に、ひとりの息子の痛みが確かに息づいていたと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2025/10/19 Amazonプライム・ビデオ
| 監督 | J・C・チャンダー | 
|---|---|
| 脚本 | アート・マーカム | 
| マット・ホロウェイ | |
| リチャード・ウェンク | |
| 原作 | マーベル・コミック | 
| 原案 | リチャード・ウェンク | 
| 出演 | アーロン・テイラー=ジョンソン | 
|---|---|
| アリアナ・デボーズ | |
| フレッド・ヘッキンジャー | |
| アレッサンドロ・ニヴォラ | |
| クリストファー・アボット | |
| ラッセル・クロウ | 

 
  
  
  
  