映画【レイン・フォール 雨の牙】感想(ネタバレ):映像の美しさと物語の空白、追跡と逃避が交差するスパイ劇

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●こんなお話

 日系アメリカ人の殺し屋が、もろもろ巻き込まれていく話。

●感想

 地下鉄のホームで突然倒れたひとりの官僚。その手には、国家機密とされる情報が入ったメモリースティックが握られていたという。彼の死は静かに始まりを告げる。メモリースティックを偶然手にした暗殺者の男は、次第に追われる立場となっていく。相手はCIA、そして東京の裏社会を仕切る組織。さらに、殺された官僚の娘までもが、運命のように彼と行動を共にする。何のために、どこへ向かって、誰から逃げているのか——それは彼らにもわからないまま、物語は加速します。

 映像はフォーカスが定まらないまま進むが、冷たい色調がスパイアクションの世界観をまとっていて、見た目は確かに魅力的でした。だが、それ以上に積み上がっていく違和感の層が、映像の冷たさを超えて、心を遠ざけていく。たとえば、登場人物たちの口から放たれる日本語の台詞は、どこか不自然な調子で響く。言葉が2度繰り返される場面も多く、場面の緊張感を噛み砕くような空気が流れてしまいます。

 物語の軸となるのは、国家の根幹を揺さぶるような情報が入ったメモリースティックだが、それがあまりにも容易く持ち運ばれていたという設定に、序盤から疑問が積もり。情報を手にしていた官僚は命を落とすが、殺害の動機や理由がはっきりと見えてこない。USBを奪うだけでは足りなかったのか、それとも殺す必要が別にあったのか、そのあたりが語られないまま話は進む。

 CIAの捜査網は東京中に張り巡らされ、主人公の動きを監視カメラを通じて追いかけていく。ゲイリー・オールドマンが演じる指揮官は、登場の瞬間から怒鳴り声を上げ、焦燥に駆られた姿を見せてしまう。その姿は冷静な司令官というより、むしろ混乱の象徴として映り、彼がこの任務の要であるとは思えなかったです。満員の駅構内で、部下に射殺命令を出すその決断も、リアリティを飛び越えてしまっていると感じました。

 逃げるふたり、暗殺者と官僚の娘。ふたりの間に芽生える感情や理解は描かれないまま、旅館で一夜を過ごし、布団を並べて昔話を交わす。父を殺した相手と共にいることの葛藤も見えず、暗殺者の方もまた、静かに過去を語るだけ。口数が多くなりすぎる暗殺者の姿には、職業上の抑制や影が感じられなかったです。

 拳銃の構え方を丁寧に教える場面があるが、その後に続く銃撃戦の気配はなく、盛り上がりかけた緊張が宙に浮く。電車に揺られ旅館で一泊する展開にも、目的が見えてこなかったりで。旅の意味が薄れ、エピソードが点として散らばっていく印象でした。

 そして、実は暗殺の依頼主はCIAだったという展開にたどり着く。彼らが最初から手を下せばよかったのではないかという素朴な疑問が残ったまま、ヤクザにCIAの局長の住所を流すという行為で物語は終息へと向かう。

 ラスト、子ども時代の回想が静かに差し込まれ、主人公は「もう仕事は辞めた」と語る。だが、その直後には電話が鳴り、新たな仕事の依頼が届く。そして彼は本名を名乗る。その瞬間に漂う奇妙な脱力感。暗殺者が自らの名を口にすることで、すべてがふわりと遠ざかっていくという。

 現実の感触がほとんど伝わってこないまま、登場人物たちの動きを見守るしかなかった100分で。スパイアクションとしての美学を追いかけようとしながらも、語られない部分があまりにも多く、心はどこか宙を漂ったまま、最後のフレームを迎えることになる1作でした。

鑑賞日:2009/10/16 Blu-ray

監督マックス・マニックス 
脚本マックス・マニックス 
原作バリー・アイスラー
出演椎名桔平 
長谷川京子 
ゲイリー・オールドマン 
柄本明 
ダーク・ハンター 
清水美沙 
中原丈雄 
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