●こんなお話
日露戦争の二百三高地でめちゃ死傷者が出る話。
●感想
映画は、ロシア軍に銃殺される横川省三のショッキングな場面から始まる。その後すぐに、当時の世界情勢が簡潔かつ丁寧に解説され、日本とロシアとの間に存在した国力や軍事力の大きな差が明示される。圧倒的な国力を持つロシアが南下を進めてくる中、日本はどう動くのか。伊藤博文は開戦に慎重な姿勢を見せるが、児玉源太郎から「完全な勝利はあり得ない、あって六分四分」という冷静な判断が語られる。それでも、刻一刻と情勢が悪化していく現実の前では、時間を引き延ばすこと自体が不利になっていく。だからこそ、「やるなら今」と、決断を迫られる政治の緊迫感が描かれていく。
一方で、戦争という巨大な事象の裏で生きる人々の日常も描かれている。ロシア文学を愛する学校教師として登場するのは、あおい輝彦さん。その恋人を演じるのが夏目雅子さん。二人のやりとりは静かで穏やかでありながら、戦争という大きな波が着実に彼らの生活にも迫ってくるのを感じさせる。召集されていくのは、街の豆腐屋の息子やヤクザ、そして小さな子どもたちを残して戦地に向かうシングルファーザーなど、ごく普通の市民たち。戦争が特別なものではなく、日々を生きる誰もが巻き込まれていく現実として描かれている。
そして物語は、乃木希典が指揮を執る旅順攻防戦へと移る。難攻不落と呼ばれたロシアの要塞を前に、ひたすら突撃を繰り返す日本兵たち。虫けらのように人が次々と倒れていく戦場の描写は、ただただ凄惨で、目をそらしたくなるような場面が続く。ここまで人が死んでいくと、開戦前の政治的な駆け引きや判断がいかに虚しく思えてしまうかを痛感させられる。カポニエール要塞の威圧感、そして日本軍の巨大な二八センチ榴弾砲による砲撃など、スケールの大きな描写が戦場の過酷さを強調していた。
観ていて強く印象に残ったのは、乃木大将の作戦意図がなかなか見えてこない点。ただ、大砲の弾も銃弾も底を突き、さらに海軍からはバルチック艦隊が到着する前に旅順を落とすよう急かされているという背景がある。やらざるを得ない状況に追い込まれた末の選択だったのかもしれないという複雑な気持ちが残る。
乃木更迭の噂が立ち、邸宅に投石が投げ込まれる事態に発展する中、児玉源太郎が再び前線に現れる。「その作戦では敵の砲撃を浴びてしまいます」と冷静に進言する彼に対して、乃木が「敵が要塞から出てこないから困っているんだ」と返すシーンでは、何とも言えない矛盾や苦しみを感じる。そこからまた新たな突撃が始まり、兵士たちは血と泥にまみれて戦っていく。
物語の冒頭で「美しい国ロシア、美しい国日本」と書いていた主人公は、最後には敵兵の目玉をえぐるまでに変貌する。その凄まじい変化は、戦争というものが人間をどう変えてしまうのかを痛烈に突きつけてくる。
そして、極限の中で語られる主人公の台詞――「兵たちは……死んで行く兵たちは、国家も軍規もそんなものは一切無縁です。灼熱地獄で鬼となって焼かれていく苦痛があるだけです。その苦痛を……部下たちの苦痛を乃木式の軍人精神で救えるがですかっ!」――には、心が打ち震えました。
全体を通して、俳優陣の演技には迫力があり、特に集団戦闘の場面での表情や動きは圧巻でした。政治と軍事というマクロな視点と、新兵の苦悩や恐怖といったミクロな視点が見事に交差しており、一本の映画として非常に完成度の高い反戦映画だったと感じます。
☆☆☆☆
鑑賞日: 2013/05/08 DVD
監督 | 舛田利雄 |
---|---|
脚本 | 笠原和夫 |
出演 | 仲代達矢 |
---|---|
あおい輝彦 | |
新沼謙治 | |
湯原昌幸 | |
佐藤允 | |
永島敏行 | |
長谷川明男 | |
稲葉義男 | |
新克利 | |
矢吹二朗 | |
船戸順 | |
浜田寅彦 | |
近藤宏 | |
伊沢一郎 | |
玉川伊佐男 | |
名和宏 | |
横森久 | |
武藤章生 | |
浜田晃 | |
三南道郎 | |
北村晃一 | |
森繁久彌 | |
天知茂 | |
神山繁 | |
平田昭彦 | |
若林豪 | |
愛川欽也 | |
夏目雅子 | |
野際陽子 | |
赤木春恵 | |
丹波哲郎 |
コメント