映画【PERFECT DAYS】感想(ネタバレ):音も言葉も静かに沁みる――役所広司が描く、“トイレ清掃員の日常”に心が揺れる

PERFECT DAYS
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●こんなお話

 東京のオシャレな公共トイレの掃除をする仕事の人の話。

●感想

 朝、外の掃除の音で目覚める主人公。布団を畳み、植物に水をやり、髭を剃って作業着を着て、朝日に目を細めながら自販機でコーヒーを買い、車に乗り込んで首都高を走る。車内ではカセットテープで音楽を聴きながら、静かな1日が始まる。

 職場は、都内の公衆トイレ。寡黙に、丁寧に、一つひとつのトイレを清掃していく姿はまさに職人そのもの。そこへ、遅れてやってきた後輩は、主人公とは対照的に雑な仕事ぶり。終業後、主人公は神社でお弁当を食べ、フィルムカメラで樹木を撮影。隣のベンチではいつも同じOLが静かにランチをとっていて、トイレ近くではホームレスの老人が舞踏を踊っている。銭湯に行き、地下街で食事をし、自転車で帰宅。本を読み、また朝が来て…そんな静かで美しい日常が続く。

 ある日、後輩が好きな女の子とデートに行こうとして原付が故障し、主人公の車を借りることに。3人でドライブし、女性はカセットテープを気に入りレンタル。後輩はそのテープが高値で売れるかもと興味を持ち、主人公が代わりにお金を貸してあげることになる。

 しかし、後輩は勝手にバイトを辞め、主人公は休みなく働くはめに。後日、女性がカセットテープを返しに来て、一緒に音楽を聴きながら泣き出す。言葉にならない感情が、静かに流れる音楽の中に滲む。

 トイレでは、五目並べのメモ書きが置かれていて、文通のように続く小さなゲーム。神社のOL、舞踏の老人、スナックのママと元夫――主人公の周囲に広がる小さな人間模様が、静かに胸に残る。

 一時的に姪が家出してきて一緒に仕事を手伝ったり、裕福な家庭の一面が見えたりと、主人公の背景も少しずつ明かされていく。

 ラストは、いつもの朝。主人公が首都高を走りながら、これまで見せなかったような感情の揺れを表現し、物語はそっと終わりを迎える。

 東京のオシャレな公共トイレが多数登場し、「THEニッポン」な技術力と、清掃員の職人気質な姿勢が堪能できる作品。役所広司さんの魅力が詰まった一作で、大きな事件がなくても、日々の尊さがしみじみと伝わってきました。

 ただ、劇中の音楽や夢、読書、舞踏といった象徴的な演出の意味は難解で、評論家の解説を読まないと深くは読み解けないかもしれません。とはいえ、それすらも「余白」として受け取れる、大人の映画でした。

☆☆☆

鑑賞日:2024/12/22 Amazonプライム・ビデオ

監督ヴィム・ヴェンダース 
脚本ヴィム・ヴェンダース 
高崎卓馬 
出演役所広司 
柄本時生 
中野有紗 
アオイヤマダ 
麻生祐未 
石川さゆり 
田中泯 
三浦友和 
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