映画【パッチギ !】感想(ネタバレ):京都・1968、熱き青春と喧嘩とフォークの物語

Pacchigi!
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●こんなお話

 在日朝鮮人と日本人の恋愛ものの話。

●感想

 1968年の京都という時代設定だけでまず興味を惹かれましたが、冒頭のバス横転という衝撃的なシーンから物語は勢いよく動き出し、ただの青春映画ではないという空気が一気に伝わってきます。昭和の街並みやファッション、教師たちの言動に至るまで当時の空気が濃密に再現されていて、観ているこちらもその時代の中に放り込まれたような気持ちになります。

 何よりも登場人物たちが皆、生きているという感じがして、どのキャラクターにもその場に確かに存在している感覚がありました。俳優さんたちの表情や声のトーン、仕草ひとつひとつがしっかり地に足のついたものとして響いてきて、リアルな躍動感に満ちていました。

 物語としては、喧嘩に喧嘩を重ねていく構成になっていて、殴り合いに勝ったかと思えばまた別の敵にやられ、そこから復讐へと動いていく流れの繰り返しになります。ただその中で、主人公の高校生がどこかひとりだけ別の世界を見ているような、静かな表情で立っているのが印象的で、彼の存在が全体の暴力性を少し緩和させているようにも思えました。

 そして物語の中心にあるのは、気の弱い日本人の青年と、周囲の目など気にせず突き進む朝鮮人高校生たちの交流。対照的な立場の若者たちがぶつかり合いながらも、徐々に心を通わせていく様子には素直に心を動かされました。どこか危ういながらも純粋な彼らの友情や絆には、いまの時代では描きづらい感情の熱さがこもっていて、観ていて胸が熱くなります。

 ヒロインの描かれ方に関しては、やや感情の動きが掴みづらい部分もありましたが、それでも物語の中で彼女が担っている存在は確かで、物語のエモーションに厚みを加えていたと思います。

 さらに特筆すべきは音楽で、劇中に流れるフォーククルセダーズの楽曲が作品全体をしっかりと支えています。中でも「悲しくてやりきれない」や「イムジン河」が流れるシーンは、喧嘩、歌唱、出産という異なる出来事が一つのリズムに乗って重ねられていき、まさにクライマックスと呼ぶにふさわしい構成でした。音楽が物語の感情を底から支え、映像と言葉では表しきれない感情を補ってくれていたように感じます。

 そして、終盤に「私はあなたとヤリたいです」と告げた後に流れる「あの素晴しい愛をもう一度」がまた心に残る余韻となって響いてきて、加藤和彦さんの音楽に深く包まれながら作品が終わっていきます。音楽と映像が融合して、時代の情熱と若者たちのエネルギーを丁寧に描いているところに魅力がありました。

 最終的には、主人公とヒロインのようにどんな時代や環境にあっても分かり合える人たちはいるし、「イムジン河」が流れるその下でも争いは起きているという現実も描かれていて、人と人との距離の難しさと美しさを同時に教えてくれる作品だったと思います。

☆☆☆

2013/04/27 Hulu

監督井筒和幸 
脚本羽原大介 
井筒和幸 
原案松山猛
出演塩谷瞬 
高岡蒼佑 
沢尻エリカ 
楊原京子 
尾上寛之 
真木よう子 
小出恵介 
波岡一喜 
オダギリジョー 
キムラ緑子 
ケンドーコバヤシ 
桐谷健太 
出口哲也 
笹野高史 
余貴美子 
大友康平 
前田吟 
光石研 
加瀬亮 
坂口拓 
木下ほうか 
徳井優 
笑福亭松之助 
ぼんちおさむ 
江口のりこ 
ちすん 

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