●こんなお話
引き取った養子が何やらおかしいぞってなる話。
●感想
物語の冒頭では、主人公のケイトが悪夢にうなされながら出産するという、どこか現実と幻想の境界が曖昧なシーンから始まります。彼女には過去に死産を経験したトラウマがあり、その出来事が精神的な傷となって今も彼女の心を苛んでいます。さらにアルコール依存症だった時期もあり、それが夫との関係や育児にも影を落としていた様子が描かれます。
とはいえ、現在のケイトは回復し、夫と2人の子どもたちと穏やかな日々を送っているように見えます。そんな一家が、孤児院から12歳の少女・エスターを養子に迎えることを決意します。家族の新たな希望として、エスターを迎え入れる決断が、この物語のはじまり。
一見礼儀正しく、大人びた雰囲気を持つエスター。独特のファッションセンスや言葉遣いはどこか浮いていますが、それでも最初は「ちょっと変わった子」程度の印象で収まっています。しかし、次第に彼女の言動に不気味さがにじみ出てきます。
たとえば学校でのいじめっ子とのトラブル。エスターはまるで事故を装うように、公園でその子に怪我を負わせます。さらに「ピアノが弾けない」と言っていたのに、実はプロ並みに演奏できたりと、彼女の“嘘”が少しずつ明らかに。
次第にケイトはエスターに対して疑念を深めていきますが、夫は「過去のトラウマから来る被害妄想だ」として、まったく取り合ってくれません。むしろ、ケイトのほうが精神的に不安定だと見なされてしまい、孤立していきます。
やがて孤児院のシスターが家を訪れ、エスターについて調査を申し出ますが、その帰り道、彼女は無惨にもエスターに殺害されてしまいます。さらに長男がエスターの正体を探ろうとしますが、彼も重傷を負わされ、病院で心停止寸前にまで追い込まれるという展開に。
追い詰められたケイトは、ついにエスターの出身地であるロシアの“孤児院”に連絡を取ります。そこで判明する真実――そこは孤児院ではなく精神病院であり、エスターは「成長ホルモンの異常により、外見は子どもだが中身は30代の女性」という人物だったのです。
この事実を誰も信じてくれない中、ついにエスターは父親を誘惑し、暴走。ケイトとの死闘の末、湖に沈んでいくことで物語は終わります。
エスターの“不気味さ”はとにかく圧巻で、どのシーンもこちらの予想を裏切るような行動をとり、観ていて常に緊張を強いられます。しかもその暴力や嘘には一切の迷いがなく、ただ“破壊”に向かって突き進む姿勢が恐ろしいです。
個人的には、「こんな惨劇を目の当たりにした家族は、この後どうやって心を回復させていくのか」と考えると、物語の余韻があまりにも重たく、エスターの恐怖以上に家族の行く末が心配になってしまいました。子どもたちは確実にカウンセリングが必要でしょうし、観ている自分も「ケイトのイライラ」に強く共感していました。
映画全体としてはよく作られており、サスペンスとしてもドラマとしても見応えがありました。ただし、120分という上映時間はやや長く感じる部分も。特に「この子、何かおかしい…」という前フリのシーンが少し冗長で、もう少し早い段階で正体を明かして、後半をもっと畳みかけてほしかったという思いもあります。
また、エスターの正体について「ホルモン異常による小児体型の成人女性」という設定がやや強引にも感じられ、観ていて「そんな病気、本当にあるの?」と疑ってしまうリアリティの壁がありました。
さらに言えば、「なぜこの家族が養子を迎える必要があったのか?」という動機付けが少し弱く、そこにもう少し丁寧な描写があれば、物語の説得力はもっと増したようにも思います。
☆☆☆
鑑賞日:2011/11/07 DVD
監督 | ジャウム・コレット=セラ |
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脚本 | デイビッド・レスリー・ジョンソン |
原案 | アレックス・メイス |
出演 | ベラ・ファーミガ |
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ピーター・サースガード | |
イザベル・ファーマン | |
CCH・パウンダー | |
ジミー・ベネット | |
ローズマリー・ダンズモア | |
ジェイミー・ヤング | |
ローリー・エヤーズ |