●こんなお話
娘が映っているニュース映像を見たい男と弟のためにフィルムが欲しい少女の話。
●感想
砂漠のどこまでも広がる乾いた大地を、ひとりの男があてもなくさまよっていた。陽炎のゆらめく地平線の先にやっとのことでたどり着いた町には、古びたレストランや市場が立ち並び、どこか懐かしさを感じさせる活気があった。町の中で映画のフィルムをバイクで運んでいる青年と出会い、言葉を交わすうちに、何気なく立ち寄ったレストランで事件が起きる。ひとりの少女が映画フィルムの缶をすっと手に取り、そのまま素早く走り去っていくのを目撃し、男は慌てて後を追う。しかし人混みにまぎれ、すぐに見失ってしまう。
その後、再び砂漠を歩いていた男は、幸運にも通りかかったトラックに拾われる。乗せてもらっているうちに、なんと先ほどの少女も偶然そのトラックに乗り込んできて、ふたりの間でフィルムをめぐる押し問答が始まる。やがて、道中で出会ったバイクの青年を見かけ、男が彼に声をかけている隙をついて、少女が再びフィルムを奪い去り、トラックとともに遠ざかってしまう。
たどり着いた村では、今夜の映画上映に向けて人々が準備を進めていた。ところが、またしても男と少女はフィルムをめぐって小競り合いを始めてしまい、上映を取り仕切っていた担当者に不信感を抱かれてしまう。保安課を呼ばれる前に何とかその場から逃げ出すが、さらなる問題が発覚する。フィルムの一部が破損してしまい、上映ができなくなるかもしれないという知らせが入る。
村人たちが総出でフィルムを洗い、乾かし、慎重に修復を進めていく中、男がフィルムを求めていた理由も明らかになる。それは、ニュース映像の中に、行方知れずとなった自分の娘の姿が映っている可能性があるからだった。父としての想いから、なんとかその一瞬を確認したいと願っていたのだった。
一方、少女の側にも理由があった。彼女の弟は、傘の骨に差して使うライトの光で夜な夜な勉強していたが、その傘が壊れ、学校でいじめを受けるようになってしまう。少女は、その傘の代わりにフィルムを使って弟の勉強を助けたいという気持ちから、フィルムに執着していた。
ようやく映画上映が始まり、男は担当者に願い出て、娘が映っているわずか1秒のシーンを何度も繰り返し上映してもらう。光の中に浮かび上がる娘の姿に目を奪われていると、上映室に現れた娘本人が声を荒げて詰め寄る。「弟が泣いてる、何言ったの?」と。動揺の中、上映担当者が保安係を呼んでおり、男はそのまま取り押さえられて殴られ、拘束されてしまう。
捕らえられた男に対し、上映を担当していた男がひそかにフィルムの切れ端を渡す。それには、娘が映っていたあの瞬間がしっかりと焼き付けられていた。そして、彼は映写室に飾られていたフィルム傘の伝統品を、あの少女に届けてほしいと託す。ところが、男の持っていたフィルムは保安係によって見つかり、砂漠のどこかに捨てられてしまう。
それから2年が経ち、男は釈放される。娘と再会を果たし、かつて自分が大切にしていた包みを手渡すが、中には何も入っていなかった。娘に尋ねると、彼女は無言のまま首を振る。男はふたたび砂漠に足を踏み入れ、失われたフィルムを探しに行く。
砂漠の広がりと、乾いた風のなかに滲む家族の想いや、文化として根付いていた映画という娯楽の存在感が印象的でした。上映会を待つ人々の期待や準備の雰囲気も温かく、どこか懐かしさを感じさせてくれます。食事のシーンも魅力的で、登場人物たちが食べるほうとうのような料理が実に美味しそうで、見ているだけでお腹がすいてくるようでした。
物語序盤で、男と少女がなぜあそこまでフィルムに執着するのかが伏せられているため、観ているこちらとしてはやや戸惑う部分もございましたが、その背景が明らかになってからはそれぞれの事情が丁寧に紐解かれていき、じんわりと心に沁みる展開が待っていました。少女のその後が明確に描かれなかったり、余韻を残す終わり方であったりと、観た後にふと思い出すような余白がある点も印象に残りました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2023/03/17 WOWOW
監督 | チャン・イーモウ |
---|---|
脚本 | チャン・イーモウ |
ヅォウ・ジンジー | |
脚本監修 | チョウ・シャオフォン |
出演 | チャン・イー |
---|---|
リウ・ハオツン | |
ファン・ウェイ |