映画【ロスト・メモリーズ】感想(ネタバレ):銃声と友情が交錯する、歴史を越えた男たちの物語

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●こんなお話

 伊藤博文暗殺がなかった世界で日本統治下の朝鮮で、テロと戦う日本警察が陰謀に気づいて時間を戻そうとする話。

●感想

 オープニング、20分にわたって繰り広げられる骨董品会場での銃撃戦。大理石の床に響く足音、重厚な陳列棚の隙間をすり抜ける銃弾、緊張感を含んだ沈黙と怒号。そのすべてが、ただのアクションではない映画の始まりを予感させるものでした。歴史と価値のある美術品に囲まれながら、観客の心をわしづかみにしてくるようなシークエンスでした。

 ただその後、奪われることになる骨董品について思いをめぐらせると、少し不思議な感覚が残ります。あれほど多くの人々が見守る中で一度は失敗に終わった奪還劇が、その後ひと気のない道端であっさりと成功してしまう。ならば、最初からその静かな場所を選んでいてもよかったのでは、と心の中でつぶやいてしまいました。

 序盤のアクションは、場面の緩急や画面のダイナミズムが気持ちよく、観ていてぐいぐい引き込まれるものでした。けれど物語が進み、登場人物たちが銃弾のなかで倒れていくたびに、その死を際立たせるようにスローモーションと荘厳な音楽が重ねられるようになります。その演出が何度も繰り返されるうちに、次第に感情の波も静かになっていってしまった感覚があります。

 物語の背景には、伊藤博文暗殺の成否が歴史の行方を左右するという設定が置かれているのですが、その一件だけで時代の流れが大きく変化してしまうという構造に、少し戸惑いも覚えました。歴史を題材にしたフィクションとしての自由度と、現実の出来事との接点。そのバランスを受け止めきれず、心が作品世界に定まるまでに少し時間がかかりました。

 けれど、そのなかで描かれる主人公と親友の日本人との関係は、しっかりと心に残りました。互いに守るものがあって、引くに引けなくなったふたりが、やがて拳銃を向け合う場面。そこには国や信念を越えて、確かに存在していた時間と心が感じられ、胸が熱くなりました。

 全体で130分という長さでしたが、そのなかにはいくつもの銃撃戦とスローモーションが散りばめられていて、もしそれらがもう少し抑えられていたら、もっとタイトで濃密な時間になっていたかもしれません。また、主人公の夢の中に繰り返し現れる謎の女性についても、最後まで彼女の存在が明かされることはなく、物語のなかでそっと置き去りにされたままでした。

 それでも、主演のチャン・ドンゴンさんがほとんどの場面を日本語で演じていたことには目を見張るものがありました。その努力と表現力が、作品全体にひとつの誠実な温度を与えていたように感じます。

華やかさと重さ、激しさと静けさ。その両方を携えた物語を味わえる1作でした。

☆☆☆

鑑賞日:2011/04/25 DVD

監督イ・シミョン 
脚本イ・シミョン 
イ・サンハク 
出演チャン・ドンゴン 
仲村トオル 
ソ・ジノ 
シン・グ 
アン・ギルガン 
チョ・サンゴン 
チョン・ボジン 
大門正明 
キム・ウンス 
光石研 
吉村美紀 
今村昌平 
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