●こんなお話
コインランドリーの店番していた主人公が女性と出会って探す話。
●感想
窪塚洋介さんが演じる主人公・テルの存在が、作品全体の雰囲気をやわらかく包み込み、その魅力で物語を成立させている映画だったと思います。最初に登場したときから、彼の目の奥に宿る小動物のような純粋さや、頭をぽりぽりと掻く何気ない仕草に、どこか不思議と引き込まれていきました。女性に対する欲望も感じさせず、まるで子どものように無垢な姿で、現実に疲れた周囲の人々の心にそっと寄り添うような空気をまとっていて、非常に印象的な人物像でした。
このテルというキャラクターが作品の中でうまく立ち上がらなければ、映画全体が壊れてしまったのではないかと感じるほど、彼の存在感は絶妙で、崩れそうな世界観をしっかりと支えていました。人間が日々の生活を重ねる中で、どうしても身にまとってしまう“汚れ”のようなもの。それを、テルはどこか洗い落としてくれるような不思議な力を持っていて、自分の欲望に振り回されることなく、淡々と、でもまっすぐに生きている。その姿勢が周囲の人物たちをじんわりと癒していきます。
対照的に描かれるのが、ヒロインの存在です。彼女は不倫をしていたり、万引きをしてしまったりと、日常の中で心が大きく揺らいでいる人物として描かれていました。一見するとテルのほうが社会的には“弱者”のように映りますが、実際には非常に芯が通っていて、むしろ心の中の揺らぎが大きいヒロインのほうが、見ていて脆く映りました。
物語は、ヒッチハイクで出会った中年男性との出会いをきっかけに、ふたりが新しい生活を始める展開へと進みます。見知らぬ場所、初めての仕事、そして小さな共同生活のなかで、少しずつ関係が変化していく様子が描かれていきました。そして、終盤で起こるある出来事の後、テルが取る行動と、それを見守るように流れていくラストシーン。静かに、しかし強く心に残るシーンで、思わず胸が熱くなりました。
とはいえ、物語の構成として気になった部分もいくつかありました。タイトルにもなっている「コインランドリー」が、冒頭と終盤に少し登場する程度だったのは、やや拍子抜けしてしまったところです。そこに集まる人々を最初に描写しておきながら、あまり本筋に絡んでこなかった点も少し惜しいなと感じました。126分という長めの尺であったにもかかわらず、ヒロインの家族関係、特に母と妹との確執が回復しないまま終わってしまった点についても、どこか不完全なまま残ってしまった印象があります。
ヒロインの母が「普通じゃない」と口にする場面があり、その後の万引きという事件を受けて、さらに親子関係に亀裂が生まれるのではないかと気がかりでした。また、豪雨の中での号泣シーンも、個人的には少し演出過剰に感じてしまいましたが、全体的にはテルという人物の存在が心に残る、温かさと優しさを感じられる一本だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2012/04/26 DVD
監督 | 森淳一 |
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脚本 | 森淳一 |
出演 | 窪塚洋介 |
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小雪 | |
内藤剛志 |