●こんなお話
特攻隊の生き残りの老人が、恩人のお墓詣りに行ったら親戚の娘さんに会って昔の儀式である死者との結婚式をする話。
●感想
1945年、太平洋戦争末期。若い橋本勝雄は戦況の悪化の中で特別攻撃隊に志願し、海軍航空隊で訓練を受けていた。死を覚悟して入隊した勝雄は、自分の未来に希望を持てずにいたが、飛行兵曹長の阿部と出会ったことで少しずつ心境に変化が生まれる。阿部は勝雄を弟のように気にかける優しい先輩で、厳しい軍隊生活の中でも勝雄を支え続けていた。
ある日、阿部は妹の静子の写真を勝雄に見せる。勝雄は会ったこともない静子に淡い恋心を抱くようになり、阿部とも家族の話を交わすようになる。阿部は戦争が終わったら妹を紹介すると話し、勝雄も生きて帰ることへの希望を抱き始める。
やがて特攻出撃命令が下る。出撃前夜、勝雄は極度の緊張と恐怖に襲われる。そして出撃当日、勝雄は高熱を発して出撃不能となる。病室で寝かされる勝雄の代わりに、欠員補充として阿部が出撃することになる。阿部は勝雄に別れを告げて飛び立ち、そのまま帰還することなく戦死する。一方の勝雄は生き残り、そのまま終戦を迎える。
しかし勝雄は、自分の代わりに阿部が死んだという事実を背負い続けることになる。自分が熱を出さなければ阿部は死ななかったのではないか、自分だけが生き残ったことは卑怯だったのではないか。そうした思いが勝雄の心を長年苦しめ続ける。
それから70年後。高齢となった勝雄は医師から余命半年を宣告される。死を意識した勝雄は、自分が逃げ続けてきた過去と向き合う決意をする。阿部の墓がある山形県天童市の若松寺を訪れ、阿部の家族に会おうと考える。
寺を訪れた勝雄は、そこで静子の娘である紀和と出会う。紀和から、静子がすでに亡くなっていることを知らされる。勝雄は大きな衝撃を受ける。静子に謝罪する機会も、自分の想いを伝える機会も永遠に失われていたからである。
その後、勝雄は紀和や寺の関係者たちと交流する中で、自分が長年抱え続けてきた思いを少しずつ語り始める。阿部が自分の代わりに死んだこと、自分が静子を愛していたこと、そして罪悪感から逃げ続けてきたことを打ち明ける。紀和は母から聞いていた話や残された手紙などを通じて、静子もまた勝雄に特別な感情を抱いていた可能性を知る。
勝雄は静子に直接会うことはできなかったが、せめて最後に約束を果たしたいと願う。そこで若松寺に伝わる「ムカサリ絵馬」の風習が登場する。ムカサリとは、結婚できないまま亡くなった男女のために、死後の世界で結婚式を挙げるという山形地方の民間信仰である。
勝雄は、自分と静子のためにムカサリの儀式を行う決意を固める。寺では死者同士の結婚式を模した儀式が執り行われる。勝雄は70年間果たせなかった想いをようやく形にする。
長い年月にわたって抱え続けた苦しみを吐き出した勝雄は、過去に縛られるのではなく、生き残った者として人生を受け入れていっておしまい。
少年時代に特攻隊員として死を覚悟しながらも、出撃直前の病によって生き残り、自分の代わりに先輩が死んでしまったという重い罪悪感を背負い続ける主人公。そのうえ余命宣告を受け、人生の終わりが見えたことで過去と向き合う旅に出るという導入は非常に興味を引くものでした。戦争映画でありながら戦場そのものではなく、生き残った人間が何十年にもわたって抱え続ける心の傷に焦点を当てている点は印象的です。
特に、主人公が「なぜ自分だけが生き残ったのか」という思いに苦しみ続ける姿には重みがありました。戦争が終われば苦しみも終わるわけではなく、その後の人生そのものが贖罪の時間になってしまうという描き方には考えさせられるものがあります。
一方で、本作の中心となるムカサリ絵馬や死者との結婚式という題材については、物語の中で十分に感情移入できたとは言い難かったです。主人公の心情は理解できるものの、それを支える周囲の人物、とりわけ紀和の考えや行動原理が見えづらく、ドラマの核となる部分に少し距離を感じました。
また、登場人物たちの年齢設定や人間関係についても違和感を覚える場面がありました。高齢の主人公に対して親密に接する様子や呼び方などがやや不自然に映り、現実感よりも作劇上の都合が先に立っているように感じられます。そのため、感動を狙った場面であっても素直に入り込みにくい部分がありました。
さらに、特攻隊という重い題材を扱っている割には、その要素が後半になるにつれて背景へ退いてしまい、物語の中心は老人と若い女性たちの交流へ移っていきます。特攻隊員として生き残った人間の葛藤をもっと深く掘り下げる内容を期待していたため、少し肩透かしを受けた気持ちにもなりました。
とはいえ、戦争の記憶を現在へとつなぎ、生き残った人間の苦しみや後悔を描こうとした姿勢には見るべきものがあります。特攻隊という題材を通して戦争の悲劇を描くだけでなく、人生の終盤になってようやく過去と向き合う老人の姿を描いた作品としては独特の味わいがありました。
贖罪や後悔、そして人生の終わりに何を残すのかというテーマに興味がある方であれば、一度触れてみる価値のある作品だと思います。ただし、戦争映画としての重厚さや歴史ドラマを期待すると方向性の違いに戸惑うかもしれません。戦争を題材にした作品というよりも、一人の老人が長年抱えてきた心の傷を見つめ直す人生ドラマとして鑑賞した方が受け入れやすい作品でした。
☆☆
観賞日: 2018/11/16 DVD 2026/06/17 U-NEXT
| 監督 | 小沼雄一 |
|---|---|
| 脚本 | 小沼雄一 |
| 港岳彦 | |
| 原作 | 清宮零 |
| 出演 | 奥野匡 |
|---|---|
| 高橋かおり | |
| 長谷川奨 |


