●こんなお話
元自衛官が白タクの運転手となって働いてたら、雀荘で亡くなった友人の奥さんを再会するけど組長の愛人になっていて……な話。
●感想
主人公は、過去にイラクへ派兵されていたという経歴を持つ男性で、帰国後に自身の家庭が崩壊してしまっていたという現実に向き合うことになる。行方のわからなくなった娘を探すためにタクシー運転手として街を流しながら、日々どこかに娘の面影を探している。あるとき、チェリーと呼ばれる女子高生と出会い、どこか気にかけながら接していくが、心の穴が埋まることはない。
彼がタクシーを通して目にするのは、日常と非日常が交差する都市の風景。とりわけ、ヤクザの世界との接点が生まれていくのが物語の流れとして印象的。主人公自身はヤクザではないものの、その社会に触れる中で、一般とは異なる倫理や行動規範に直面していく。その中でも、特に小沢仁志さん演じるヤクザの存在感が際立っていて、画面に登場するだけで緊張が走るような迫力がありました。威圧感と共に、どこか滲む哀しさも垣間見えるような佇まいが魅力的でした。
日々の営みの中で、主人公はある女性と出会う。彼女はすでにヤクザの愛人となっていたが、それでも二人は互いの寂しさに惹かれ合い、関係を結ぶことになる。しかし、失ったものの大きさや、それを埋めるだけの温もりが見つからないまま、二人の関係は修復でも再生でもなく、緩やかな崩壊へと向かっていってしまう。
クライマックスでは、主人公がショットガンを手にし、怒りと哀しみのままにヤクザたちを次々に撃ち倒していく姿が描かれます。その表情には激情だけでなく、どこか達観したような諦めも滲んでいたように感じられました。暴力という選択肢がもたらすものは、単なるカタルシスではなく、登場人物それぞれの抱えてきた空白が、そのまま破裂したかのような痛みでもあったように思います。
上映時間は70分あまりと短めながら、静かに流れていく前半から一転して、後半は荒々しい展開が印象に残りました。展開の緩急については好みが分かれる部分かもしれませんが、個人的にはこの映画ならではの間の取り方に、どこか引き込まれるような感覚がありました。
タイトルにあるような「仁義」という言葉が、ここでは仲間うちのルールではなく、孤独な人間同士が交わす小さな約束や、裏切りすらも含んだ人間関係の皮膚感覚として表現されていて、観終わったあとには静かな余韻が残る作品だったように思います。やるせなさと美しさが同居する、そんな一編でした。
☆☆☆
鑑賞日:2014/07/03 DVD
監督 | 渋谷正一 |
---|---|
脚本 | 松平章全 |
出演 | 的場浩司 |
---|---|
赤澤セリ | |
山口祥行 | |
寺田農 | |
宮崎貴久 | |
HIDE | |
倉見誠 | |
石原美優 | |
小沢仁志 |