●こんなお話
現代日本と古代ローマを行ったり来たりするドタバタの話。
●感想
古代ローマ。浴場設計技師として働くルシウス・モデストゥスは、自分たちの風呂文化に納得できず、自分の仕事にも自信を持てなくなっていた。ある日、浴場に潜っていると、排水口から発生した強い流れに飲み込まれ、意識を失ってしまう。やがて目を覚ますと、そこは古代ローマではなく、見たこともない現代日本の銭湯だった。
突然の異世界にもかかわらず、ルシウスは湯の温度管理の巧みさ、湯上がりの牛乳、脱衣所の使いやすい構造、洗い場の配置など、ローマには存在しない工夫に驚く。再び穴に吸い込まれローマへ戻ると、彼は銭湯で得た知恵を応用し、浴場を改良して周囲を驚かせ、徐々に名声を高めていく。
そんなルシウスを、日本で偶然見かけたのがイラストレーター志望の女性・山越真実だった。彼女は何度も現代日本に現れるルシウスを目撃し、最初は偶然と思いながらも、いつしか彼が異世界から来ているのではないかと感じ始める。
ルシウスの名声が高まると、ローマ皇帝ハドリアヌスから直接の命を受けるようになる。皇帝は疲れた民を癒やす大浴場の建設を求め、ルシウスはその期待に応えるため、再び訪れる日本で介護用入浴設備や露天風呂文化などを観察し、それらをローマに合わせて取り入れていく。
一方、ローマでは皇位継承を巡る争いが激しくなり、ルシウスの浴場建設も政治の渦に巻き込まれていく。やがてルシウスは追放され、戦場で傷ついた兵士たちを癒すため、現代日本の入浴文化を応用した温泉の建設に取りかかる。そこには偶然タイムスリップしてきた日本人たちの協力も重なり、ローマの地に新たな湯の場が広がっていく。
すべてが終わり、真実は日本に戻ってイラストレーターとして努力を続けていた。そんな彼女の前に、再びルシウスが現れ物語はおしまい。
阿部寛さんが古代ローマ人を演じるという発想そのものが強烈で、映画の入り口から観客をつかむ魅力が満載の作品であると感じました。とくに、慣れない現代日本に突然放り込まれたルシウスが、銭湯やトイレの設備に驚き、真面目な調子でモノローグを続ける姿は非常に味わい深く、その真剣さがかえって大きな笑いを生んでいたと思います。ウォシュレットに感動する場面や、銭湯での細かい描写は、文化の衝突による面白さを丁寧に伝えており、阿部寛さんの表情と声の芝居が作品に独特の温度を与えていたように感じます。
物語が進むと、ルシウスがローマへ戻って日本の技術を再現し、天才建築士として評価されていく姿が描かれますが、その裏側には模倣することへの葛藤や、自分が誇られていくことへの戸惑いもあり、主人公の複雑な感情が丁寧に積み重ねられていました。また、日本人を「平たい顔族」と呼ぶ距離感を持ちながらも、その文化には深く惹かれていく姿に、人間味のある揺れを感じました。
ただ、後半は雰囲気が大きく変わり、日本で知り合った女性がローマに登場し、歴史を修正する計画を進めていく展開は、前半の明るいコメディから一歩離れた印象を受けました。そのため、軽妙な笑いが続く序盤に比べて勢いが弱まり、やや平板な印象が残った部分もあります。それでも、ローマと日本という二つの文化を行き来しながら、湯を通じて人々を癒やしていく描写には温かさがあり、登場人物たちの魅力が随所で光っていたと思います。
タイムスリップの仕組みは大胆な発想ですが、その荒唐無稽さを成立させる熱量があり、作品全体の楽しい空気を支えていました。阿部寛さんの肉体美と存在感は圧倒的で、画面に映るだけで説得力があり、この作品の大きな柱になっていたように感じます。
☆☆☆
鑑賞日:2014/04/15 Hulu 2025/11/25 U-NEXT
| 監督 | 武内英樹 |
|---|---|
| 脚本 | 武藤将吾 |
| 原作 | ヤマザキマリ |
| 出演 | 阿部寛 |
|---|---|
| 上戸彩 | |
| 北村一輝 | |
| 竹内力 | |
| 宍戸開 | |
| 笹野高史 | |
| 市村正親 |


